◎顔|Face シニア法務コンサルタント/弁護士 Daw Tin Ohnmar Tun ティン・オンマー・トンさん

国際感覚あふれる女性法律家が語るこの国の課題 「知的財産権」の権威で数々の商標侵害訴訟に勝訴

 女性ながらなかなかのキャリアと見識を持つ法律家であった、欧米で法曹学を学び、特に「知的財産権」に関しては数々の国際的な訴訟を手掛け、勝訴へ導いた。新政権になって「教育」と「法の順守」が重要課題になっているだけに、彼女の出番は増えそうだ。

著作権問題は避けて通れぬ課題 商標権への高い認識を植え付ける

3月31日で現政権の任期が終了し、4月から新政府となるミャンマーだが、党首のスーチーさんも常々言っているように、これからこの国にとって大事なのは「教育」と「法の順守」である。中でも、法は国家の根幹を成すものだけに、立法、行政を含めて大きな使命と課題を持つことになる。  今回ゲストにお招きしたオンマー先生は、軍政時代からこの国の法曹界で活躍してきた数少ない国際的な女性弁護士であり、法律家でもある。  「私の専門?あえて言えば”知的財産権”の保護になります。そう、今、ミャンマーにとって一番頭の痛い問題ですよ。なにしろコピー製品が氾濫している国ですからね」  のっけから先生は、ミャンマーが国際化を促進していく上では避けて通れない難題について切り出した。確かに、街を歩けばコピーされたCDやDVDが露店で平然と売られている。正規で買えば300円くらいの代物だが、値段はなんと10分の1の2,30円が相場。むろんほかの製品にもいわゆる“まがい物”が多く、大型商業施設の店舗では欧米のブランド品のバッグなどのコピー商品が堂々と軒先に並んでいる。 「ミャンマーの人はデザインが綺麗だったりすると簡単にコピーしてしまう。別にそっくりにしなくてもいい。あいまいなコピーになっているが、盗作は盗作ですよ。こうした意識はまず国民から直さないといけません。だって考えてもみなさい、偽者で壊れたって補償はありませんよ。本物なら少なくとも保証期間というものがある。安くとも偽者にはそれがないのよ。結果的にどれだけ損するかということがわからないといけませんよ」  ご専門の分野だけに、話し出すと止まらなかった。こうした盗作や模倣への罪の意識を養うには、やはり先生も教育の重要性を指摘した。  「商品の使用権についてお店や売り場のリーダーたちに注意を促し、教育する。トレーニングが必要です。そうしないと外資などは、自社のトレードマークや信用力が損なわれる恐れがあるので、絶対にこの国には進出してきませんよ。それはこの国の経済にとっては大きな損出。価格的に高くても確実に信用して使える商品であるという意識を、まず売り場側から変えていかないと駄目ですよ」  オンマー先生のお説はごもっともであった。今後、ミャンマーが国際間との取引を拡大させ、文化的な交流が増すにつれ、著作権、商標権そして知的財産権の保護はとても重要になる。ブランド力を売り物にする外資だって二の足を踏む。しかしこれは政府がいくら厳しく取り締まっても、とどのつまりは国民の意識が変わらないと改善されてはいかぬ。

36歳で弁護士デビュー 国際間訴訟案件も舞い込む

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オンマー先生は、厳格な家庭で育った。父はやはり法律関係の公務員だったという。ミャンマーの場合、高校卒業時の総合試験の点数で進むべき大学の専門課程の選択肢を与えられるそうだが、彼女の総合点数では「サンスクリット語」(パーリ―語)か「法学」の2者択一しかなかったという。仕方なく後者を選択したが、結果的にこれがオンマーさんの人生を変えた。  法律学の学士を取り、米国へも留学した。そして1986年、36歳で弁護士としてデビューした。「外国の友人も増えました。弁護士としての手数料も適正だったから、依頼や相談ごとが多くなってきました。でも、ずるい客もいたわね。不正な書類でごまかそうとしたり、紹介してあげてもなしのつぶ手だったり、はじめは苦労の連続でね」  しかし、流暢な英語を操り、毅然とした正義感あふれる言動が相まって、彼女の弁護士としての名声が上がっていく。依頼は労使の紛争なども舞い込むようになった。  「批判を受けがちな雇用側の不満も理解しないといけない。労働者だって間違いをするときは良くある。商品を半分だけ売って、残りをそのまま無責任に保管しているとか。プロモーション期間に安く買って、それをまた定価の半額で横流しするとか。当時の法律は労働者保護に傾いていたから、労働者側に非があっても、雇用側が煮え湯を飲まされるケースが多かったわね。だから、雇用者側には労働者一人ひとりと、きちんとした雇用契約を結ばないと駄目と、何度も提案しましたよ」  専門は「知的財産権」だけに、商標をめぐる国際間の訴訟案件も来るようになった。その中でも1990年の商標権侵害訴訟は難儀したという。  「洗剤メーカーの訴訟でした。シンガポールのメーカーの「Jambo」 と、ミャンマーで売られた「Jumdo」の商標権侵害裁判でした。もちろん原告側の弁護人でしたよ。訴訟の結着まで3年かかったけど、今まで一番印象に残る案件だったわね。勝訴してホッとしたわ」

自分の持ち場を守り誠意ある仕事を 法曹界ももっと襟を正して進むべき

今回政権が変わり、NLDがこの国の舵取りをしていくことになるが、先生はこの政府をどのように見ているのだろうか。その点にも興味が湧いたので質問をぶつけてみた。  「NLDの支持者は若者が多いし、しっかりとした教育受けた高学歴者も少なくない。しかし肩書を持つなら、それにふさわしいことをしないといけません。マナーを守る義務も当然付いてくる。法律だけで問題は解決できない。それ相応の態度も身につけないといけない。例えば 「膝は膝の場所、額は額の場所」という諺がミャンマーにはあるように、裁判官がクライアントと一緒に喫茶店でコーヒー飲んだりすることが、どれだけ信頼感を失うか、よく考えないといけない。議会で仕事をするなら、自分の存在と場所の役割をちゃんとわきまえて仕事をしていただきたい」  「法曹界でいえば、法律の専門家がまず法律を無視するようなことをしてはいけない。これは良識の問題ですが、新政府になるなら、このモラルをもっと向上させていただきたい。そして国民の声を聞いてあげてください。だから裁判長は法廷に居座るだけでなく、外に出てください。庶民の声を聞き、もっと対話してください。公正な審判を下せるようにしてください。大事なことは何事も包み隠さず、透明性のあるシステムにしていただくことなんです」話がご専門の法曹界に及ぶと、オンマー先生の舌峰は鋭く、そして正義感一杯の論調を繰り広げた。おっしゃることは正論であり、腹に据えかねていることも沢山おありだと推察できた。「法曹界で仕事する方々は、当然専門知識は必要ですが、例えば労働者の権利とか、環境保護の問題とか、法律に不具合はないかなど、様々な分野の基礎知識をもち、日々自問していかないといけないと思う。他国と比較して待遇面だけを見ない。国家としての“正義”とは何かを常に念頭に置き、ご自分の意見や感情をはっきり表にだしていくべきでしょう」  現在、先生は弁護士業務に加え、「アジア知的財産協会」やシニアの権利保護、法律の免責問題などの支援組織の活動にも追われている。 「知識がないということはとても危な い。最近大学の水産学部で問題が起こった。船の内部が割れたそうで、原因を調べたら珊瑚礁にぶつかったとという。  海上や国の領海内のデータさえ更新できていれば、事故は未然に防げたそうです。だから大学と言えども、講義内容が適切かどうかも検証すべきでしょう。教育がないことは本当に怖い。法律が逆用されるかもしれないのです。だから教育と法律の問題は重要なのです」  オンマー先生は、歳をとって体の自由がきかなくならない限り、若者たちを啓蒙し、指導していきたいという。折り目が残っている紙のような年配より、無垢で空(から)の若者たちに期待する。そのため誰でも参加できる「Free Education」の場を作るのが今後の夢だという。ミャンマーの行く末を真摯に考える先生の活動には注視していきたい。

<Daw Tin Ohnmar Tun 略歴> Senior Advocate & Legal Consultant  生年月日  : 1950年2月12日 ヤンゴン生まれ 血液型   : 0型 学歴    : B.A Law (LLB)、LLM(UK) 職歴    : 法律コンサルタントLegal Consultant ,  Idemnity Associations ,The Law Chambers 社会活動  : 国際不動産所有者協会副会長 Vice – President ,IPPAM  (International Property Proprietors  Association Myanmar )        Myanmar Counceller , Legal Educator IFG (International Friendship Group) 家族    : 長男、長女、ご主人Bio Medical Engineer (Kyoto University) 夢     : 様々な組織の若者を国際的な知識と経験を持てるように努力 していく。自分の国が今何を必要としているかを理解でき、社会貢献できる 人間になれるように教えていきたいと思う。

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