◎今月の視点 「譲る」という風潮が芽生えねば「途上国」のレッテルは永遠に取れぬ

先月後半に低気圧がやって来て、突然の大雨が続いたが、これは本格的雨期と呼んでいいのか、また暑さがぶり返す予感もする。

目次

今年の夏は異常気象だった 停電頻発し電力不足を露呈

先月後半に低気圧がやって来て、突然の大雨が続いたが、これは本格的雨期と呼んでいいのか、また暑さがぶり返す予感もする。しかし4月からそれまでの暑さは半端ではなかった。ヤンゴンが連日40度、マンダレー44度という驚愕の気温だった。
 しかもこの酷暑に追い打ちをかけるように停電が頻発した。水力発電が7割を占め、半年も雨がなければ水位の低下は当然で、電力供給量は減る。なのに電力消費は増える一方。だから酷暑の日中にどうして
も外出せねばならぬ時は少し憂鬱だった。
 この時期エアコンなしのタクシーなど論外だったし、やっと見つけた車でやれやれと思っても、エアコンの効きが悪いと本当に落胆した。しかも市内は渋滞で、エアコンの効きが落ちる。ハンカチで汗をぬぐい、衝動的に窓を開けると、熱風が吹き込む。
 すると、突然停電で交差点の信号機が消え車が無秩序に突込んできて身動きがとれぬ混乱状態に。そしてクラクションの嵐。もう一瞬に修羅場だ。しかし誰も交通整理を買って出る輩はいない。ラチが空かぬとわかれば、仕方なくこちらはタクシーを下車して炎天下を歩く破目になる。こうなると、何の要件で外出したのかも忘れ去る。

横断歩道など形骸化する怖さ 車優先社会の悪しき慣習が

水祭り前のことだった。昼前のピーロードの横断歩道で、初老の西洋婦人が両手を広げて絶叫していた。たまたまタクシーで婦人の横を走り抜けた時に「なぜ止まってくれないの!」という英語が飛び込んできた。窓ガラス越しに聞こえたのだから相当な叫び声で、表情はまさに鬼の形相だった。
 むろんこの幹線道路は交通量がすごい。もし、急停車したら後続車の追突は免れない。だから停車できない車もいただろう。しかし、根本原因は横断歩道を渡る歩行者を発見したところで、ドライバーたちが保護したり、いたわる気持ちなどサラサラな
いからだろう。この意識は本当に怖い。
 卒直に言えば、この国は車優先社会である。路地の横道から出入りする車でも、歩
行者が立止まって走行を譲る。そうしないとすぐ警笛を鳴らされる。腹立たしい慣習にしてしまったものである。同じく渋滞社会の隣国のバンコクでさえ、歩行者優先の意識は芽生えているし、間違っても威嚇されるような行為はない。

ドライバーのマナーの悪さに閉口 人命の尊さを今一度かみしめるべき

当方がこの地へ来た当初は車も少なく、マナーの悪さもさほど感じなかった。しかしこの4年で50万台もの輸入車が入り込み、未熟で悪質な運転をするドライバーも増えた。
 相変わらず市中の道路は駐車場と化し、主要渋滞交差点にやっと陸橋がかかったが、その前後の交差点が混む結果となり、根本的な渋滞解消には至っていない。
 ドライバーたちは、隙あらば流れがスムーズなレーンに割り込んでくる。左折レーンの信号待ち車列を無視し、直線レーンから強引に割り込む車も絶えない。そのうえUターンや路駐も年中だ。一般道路は2車線くらいはあるのに、両脇は駐車車両で満杯だから実質1車線となり、切り返しを何度も行うので、その度に後続車が停滞する。
 バスの運転手のマナーも最悪だ。昨年主要道路に専用レーンができたが、渋滞になると全レーンを縦横微塵に走り抜け、強引に車線変更を繰り返すシーンが目に余る。しかし、こんな乱暴な運転では、先進国では間違いなく相当な社会的糾弾と制裁を浴びる。
 一体、この国のドライバーは人間の“命”を何だと思っているのか。ミャンマーは敬虔な上座仏教徒が9割以上を占める国である。生まれた時から「5戒」という素晴らしいモラリズムを教えこまれ、それを基盤に生活してきたのではなかったのか。
 「5戒」の精神の根源は社会や他者に迷惑をかけてはいけない。だから功徳を積んで、来世では今以上の人間に生まれ変わり、幸福を手にしたいという教えではなかったのか。たとえ虫一匹でも殺生することを忌み嫌う戒律ではなかったのか。にもかかわらず、ハンドルを握るとどうしてこの崇高な教えなど忘れ去り、悲壮な顔で停止を懇願する西洋婦人を無視し、危険な目にあわせたりするのか。

はっきり言うが。この国人々には「譲る」という精神が欠けている。欧米日本では当たり前のマナーでも、残念ながらこの国には存在しない。だから外国人が眉をひそめても、1分でも早く先を急ごうとする。店先でも順番を待つことができず、他者を押しのけてまで交差点に入ろうとするマナーの悪さは、この「譲る」という習慣が希薄だからだろう。
 経済改革をはじめ国民生活の向上を目指して、新政権は前政権の施策を検証しながら始動を開始したようにも見える。ミャンマーはあり余る人的物質的資源を有する国で、将来への可能性を大いに秘めている国だが、こうした悪しき習慣を社会全体で是正していく風潮と気概を作り出していかなければ、失礼ながら、永遠に「途上国」というレッテルは取れない。横断歩道の西洋婦人は母国へ帰って何と言うか。おそらく「野蛮な国」と喧伝するに違いない。それが悔しいと感じるような自戒がなければ、当方は本当に失望する。

Tags
Show More