◎今月の視点 ミャンマーで事業を成功させる鍵は「報徳的商店経営」の思想に宿る

今年は乾季と雨期の明確な狭間がない。気が付いたらなんとなく雨期になっていたというのが実感だ。

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勢いを増した邦人来訪者の数 ティラワにも高い関心が集まる

今年は乾季と雨期の明確な狭間がない。気が付いたらなんとなく雨期になっていたというのが実感だ。午前中は比較的晴れ間が覗くが、午後から雨雲が顔を出し、スコールがやってくる例年のパターンに定着しつつある。
 しかし、この悪天候にもめげず、最近はとみに邦人来緬者の数が勢いを増している。中でもテイラワSEZへの関心が熱くなってきているようだ。現在、60件を超す申し込みが来ており、認可待ちも20余社になったという。そしてZone-Aで操業を開始した企業はすでに10社になったという。
 その10社目の企業となって門出を切ったのが、先月20日にオープンした「DAIZEN MYANMAR CO., LTD」(詳細は動P12)だ。ウェアハウス、ロジスティック業としては、ティラワでは上組に次ぐ2社目の企業である。
 親会社の株式会社大善は、福島県や東北地域で倉庫業を核に幅広い事業を展開する中堅のロジスティック企業である。創業は1740年、江戸時代に両替商としてスタートした名家で、福島県では知らぬものがいないほどの超有名企業のひとつだ。
 2011年3月の東日本大震災では、発生2日目に自社倉庫スペースを救援物資保管場所に提供し、全国からの送られてくる支援物資を900か所以上の避難所へ供給を行った。ほかにも被災者のために避難場所を提供するなど、様々な支援活動を続け、地域へ多大なる貢献行ってきた。
 グループを率いる矢部善兵衛社長(66)は、一般社団法人日本ミャンマー文化経済交流協会の井畑敏理事長のアドバイスと協力を受け、3年前の2013年1月に来緬。そして2度目のヤンゴン入りとなった3月にティラワ進出を即決した。276年もの歴史を有する超老舗企業でありながら、驚くべき先見性と決断力と言っていい。

聞くと見るとでは大きく異なる 様々なギャップをどう克服するか

2011年の民政移管後、ミャンマーには相当数の日本企業が注目し、現実に進出を開始した。現在ミャンマー日本商工会議所の会員数だけでも、当時の5倍の300社にもになっているという。中小企業やベンチャーを合わせれば、400社を超す邦人企業がミャンマーで活動中だという。
 しかし、一方ではこの5年間に、視察段階で進出を断念した企業も数えきれない。ビジネスを構築する市場としては、日本で喧伝されているような「最後のフロンティア」的な甘い国では決してないからだ。それは聞くと見るとでは大違いで、様々なギャップに直面して決断を鈍らせるケースが少なくない。
 製造業の場合なら、まずコストパフォーマンスの壁に突き当たる。確かに物価は日本の8分の1程度で安い。人件費に至ってはブルーカラーならば10分の1以下だ。しかしホテルなどの宿泊費やオフィス賃料、駐在員の向けの住宅賃料は未だ異常に高い。民政移管が急激に始まったため、外国人向けの住宅や宿泊施設の供給が需要を下回わり、いわゆる売り手市場の状態が長らく続いていた。
 チャイナやタイプラスワンを目論み、製造拠点の移設を計画して視察にきても、前記賃料の高さにまず驚き、原材料をほとんど輸入に頼る現状に不安を感じ、電力をはじめとした脆弱なインフラを目の前にすると、この段階で二の足を踏むケースが実に多い。いくら人件費が安くても、原価を緻密に算出すると、さほどコストダウンにならぬことに気付く。
 製造業に限らず、この国のビジネス環境に面食らう方も多い。財閥と言われる大企業から中堅企業まで、中国の華僑やインド商人たちと長年互角に渡り合ってきた百戦練磨の経営者が多いだけに、交渉術には長けており、タフなネゴが必要だ。

進出の決断は経営者の嗅覚か 地域密着の社会貢献活動を

しかし、そうしたマイナス要素を差し引いても、前記の大善ようにミャンマー進出を即断する邦人企業も存在する。なぜなら、同社の場合は、将来的にロジスティック事業はミャンマー経済の根幹をなすと読んでいるからだろう。
 こうなると進出の決め手には、視察、調査の域を超え、もう経営者の嗅覚か直感のようなものが必要になる。
 進出した邦人企業がまず直面する人材不足の問題も、ミャンマー人は組織だったビジネスの経験が少ないから、きちんと指導すれば、少なくとも組織内での自分の責任の範疇の仕事はこなしてくれる。
 また、「アーナバーディ」(遠慮します)という言葉を日常的に使い、そのわりにプライドだけは人一倍高い国民性だけに、ほめ言葉8割、重要な小言を2割程度に抑えて社員教育していけばうまくいく。と語る邦人経営者もいる。
 しかし、これが一番大事なことだが、進出企業がどれだけ地域に貢献できるか、あるいはしてくれるのか、という点が成否のカギを握るような気がする。だから最初からビジネス色丸出しで、利益を追求していこうという強欲な姿勢ではうまくいかない。ミャンマー人に胸襟を開いてもらい、良好なネットワークを築いていくには、雇用の創出はもちろんだが、近隣住民との融和を計り、地域に蜜着した社会貢献活動を怠らず、日本企業の”良心“をまず示すことが肝心だ。
 冒頭で触れた「DAIZEN MYANMAR」の若きリーダーに就任した長男の矢部智昭MGやCEOの善兵衛氏の母体である大善は、福島県で多大なる地域貢献をしながら業績を伸ばしてきた。社訓には代々「報徳的商店経営」という言葉が受け継がれている。あの二宮尊徳の道徳思想だが、私利私欲に走らず、社会に貢献すればいずれ自らに還元されるという教えである。同社は今この社訓を掲げてティラワで、ミャンマーで事業を展開していくという。

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