◎今月の視点 自家用車の市中心部への乗り入れ規制を真剣に考える時が来た

例年より乾期の本格化がもどかしかったが、ミャンマーの気候はやっと安定してきた感がある。      

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絶えない路線バスの強引な運転 バスシステムの改革がされたのに

例年より乾期の本格化がもどかしかったが、ミャンマーの気候はやっと安定してきた感がある。日中の陽射しはさすがに厳しいが、湿度が低めになった分、木陰に入ると本当に爽やかだ。不安視されていた観光客も順調に推移しているようだ。弊紙事務所のあるホテルにも、バスを連ねた外国人ツアー客、特に西洋人の姿が目立つようになってきた。
 ところでバスといえば、先月8日の昼頃、幹線道路のPyayRdとAhloneRdとの交差点付近で、路線バス数台と乗用車6台を巻き込む大規模なクラツシュ事故が起きた。
 どうしたらこんな姿になるのかと思うほど凄まじい事故車の大破ぶりである。幸いにも死者は出なかったようだが、原因は路線バスの強引な車線変更だったという。
 確かに、常々この国の路線バスの運転手さんのハンドルさばきは、見ていてハラハラしてきた。もちろんすべてとは言わないが、隙あらば強引に左右に割り込んでくるケースが実に多い。同乗する車掌が車体から身を乗り出して、後続車を制止して有無を言わさず車線変更する光景も日常茶飯事である。前方の車がもたついていたりすれば、クラックションをけたたましく鳴らし、威喝する。
 今年の1月にヤンゴン市内のバスシステムの大改革が行われたのはまだ記憶に新しい。管理組織がマタタ(バス事業監督組合)からヤンゴン市交通当局に移管され、個人経営のバスは、8つの法人会社に組み込まれた。
 その結果、300以上あったバス路線は58に統合され、1995年モデル以前のバスやトラックバスは運行禁止になった。そして9月からは中国から輸入したBRTバスが登場し、郊外からダウンタウンへ直行するバスを廃止し、その代替えとしてこの黄色い車体の高速バス系統を新設した。路線を整備し、混雑の緩和を目指したのだ。これまでのダウンタウンへの各駅直通バスの大半が廃止されたため、当初は利用客の不平不便の声が相次いだが、現在はほぼ沈静化してきた。
 この改革以前は、大半の運転手さんはノルマ制だったので、彼らは回数を稼ぎたいがために先を急いで乱暴極まりない運転をしていた。これも問題になり、そうしなくてもいいように8つの法人会社に所属して、定額給与制を敷いたはずだった。それなのに相変わらず危険な運転をする運転手が後を絶たないのは何故なのか。

なぜ交通地獄は解消されないのか 世界的に日常化した乗り入れ規制

バスが無謀な運転をする根本原因を突き詰めれば、ヤンゴンの異常な交通状況にあるのは明白だろう。行政当局も右ハンドル中古車の輸入規制を法制化し、タクシーの数の適正化や認可制への問題点を検証したりもしている。2年前にバス専用レーン設けたりして様々な対策を講じているようだが、依然、根本的な解決にはなっていない。何しろ2013年には約30万台だったヤンゴンの車両台数が、昨年は約72万台にもなっているからだ。
 そこで最終的な渋滞解決手段として、市中心部への一般車両の乗り入れ制限を敷く方法はどうなのか。もうその時期にきているのではないだろうかとも思う。
 他国の例を挙げれば、同じく渋滞地獄のインドネシアの首都ジャカルタは、昨年8月から対象となる道路への乗り入れを奇数日は末尾が奇数ナンバー、偶数日は偶数ナンバーの車両に限定する新政策を1カ月の試験期間を経て導入した。実施は月~金曜日の午前7~10時と午後4~8時の混雑時に限定し、警察、緊急車両やバスなどを除外した自家用車の乗り入れを規制した。違反者には2カ月以内の拘留もしくは50万ルピア(約3850円)の罰金が科されるという。
 隣国インドの首都ニューデリーでも昨年1月から一定期間、自動車ナンバーの末尾が偶数車と奇数車により、通行を1日おきに規制する法令が施行された。この政策は渋滞解消もあるが、「世界最悪」(WHOデータ)といわれる大気汚染の広がりを抑制する環境対策も視野に入っていた。新たな規制は私有車が対象。タクシーやバス、オートリキシャ(自動三輪)などの公共交通機関は適用外だが、汚染対策としてトラックの市内への乗り入れ規制も強化された。
 中国の北京でも、車の大量流入による排気ガスの大気汚染が問題視され、2013年から市当局は深刻な大気汚染が3日間続いた場合、車のナンバープレートの数字が奇数か偶数かによって1日おきに市内道路の通行を禁止する規制を承認、開始した。 
 環境に厳しい欧州ではもっと厳格だ。フランスのパリでは、これまで車両のナンバーを奇数と偶数に分けて乗り入れ規制を行っていたが、今年1月からは車両の登録年を色表示するステッカーを利用し、市内への乗り入れ規制をさらに強化した。大気汚染が警戒レベル以上に悪化すると予想されたためで、灰色のステッカーを付けた1997~2000年登録のディーゼル車は、事実上進入禁止にされたのだ。
 イタリアでも2年前からすべての車両について、ナンバーの末尾が奇数か偶数かによって、ローマ市内への車の乗り入れを一日置きに規制する政策を施行。すでにローマでは、汚染の元凶とされる古い車両の運転は事実上禁止されている。またミラノの措置はさらに厳格で、午前10時から午後4時(現地時間)の間、マイカーの市内および郊外への乗り入れを全面禁止にした。
 この他欧州ではスペインのマドリッド、ノルウェイのオスロなどの都市が厳格な車両乗り入れ規制を敷いている。日本でも最近神奈川県の鎌倉市で、週末や祭日に市外からの車による渋滞が深刻化し、現状では緊急車両の走行も出来ない状態になってきているという。そこでこれを減少させる目的で乗り入れを有料化する案も検討されているという。
 ヤンゴンの場合はこうした都市に比べて他に環状線しか交通手段がないので、いきなり強引な乗り入れ規制は出来ぬかもしれぬ。しかし週末はともかく、まずは月、水、金あたりに試験的に乗り入れ制限を設けたらいかがなものか。そのデータを検証し、改善を重ねて本格導入していくべきではなかろうか。

むやみに警笛を鳴らすのはもうやめに 最終的にはルールとマナーの撤底化が

最近もう一つ気になるのは、ヤンゴンでは緊急自動車の出動回数がとみに増えているように感じることだ。幹線道路沿いに住んでいる当方は、緊急自動車のサイレン音と、朝夕の渋滞時の車のクラックションの音が耳にこびりつくようになって仕方がない。
 先般、日本へ久々に帰国した知人がいみじくも言っていた。東京はヤンゴンの倍以上の人口を抱える大都会なのに、都心でもクラックションの音を滅多に聞かない。道路の合流地点でも誰に指示されることなく、整然と順序よく車の流れを作っている。改めてドライバーのマナーの良さを感じたという。
 むろん日本の公共交通機関の運転手さんのマナー、技術は言うまでもない。これは厳格な免許取得制度と交通違反に対する重い罰則が設けられてきたためでもあるが、しかし何より日本の社会が「車は凶器」という認識を徹底させてきたことにもよるだろう。
 ことは日本に限らず、数年前に10年ぶりに訪れた米国でも、車の警笛音は忘れたころに聞こえてくる程度だった。しかも、西海岸の犯罪都市と言われたL.Aでも、緊急自動車のサイレン音が極端に減少していたのには驚いた。
 隣国のバンコクでも、ドライバーの運転マナーは格段に上がった。まだヤンゴンに負けず劣らずの交通渋滞が続いているが、少なくともドライバーたちには「歩行者優先」という意識が芽生えている。むろんバスの運転手のマナーも上がり、警笛を鳴らして蹴散らすような行為はついぞ見かけない。
 ヤンゴンの交通状況を改善するためには、前述した乗り入れ規制をもう真剣に考えなくてはいけないが、それでもさらに突き詰めれば、最終的にはやはりドライバーの意識の問題に行き着く。人を人と思わない人間性を疑われるような運転は絶対にやめるべきだ。そしてむやみに警笛を鳴らさずに、譲るベきときには譲る習慣を社会全体で撤底させていかなくてはいけない。そうしないといつまで経ってもこの渋滞地獄は解消できず、それが原因で引き起こされる冒頭のような悲惨な事故はなくならない。

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