◎今月の視点 何人も”法”の上には立たず、厳格かつ公平な「民主国家」への道を

「新年明けましておめでとうございます」。  年が改まってこうご挨拶させていただいても、毎度のことながら正月の実感は湧かない。

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日本の正月気分には浸れない 国王崩御で喪に服すタイ国民

「新年明けましておめでとうございます」。
 年が改まってこうご挨拶させていただいても、毎度のことながら正月の実感は湧かない。年明けの午前零時に市内あちこちで花火や爆竹が上がり、New Yearのお祭り騒ぎになるが、「深々と降る雪を踏みしめて初詣に向かう」といったような日本の静寂かつ情緒あふれる新年とは無縁だ。
 ところで昨年10月13日に、タイのプミポン国王(ラーマ9世陛下)が崩御された。88歳だった。偶然だが、当方はその1か月も経ない時期にバンコクへ行く用事があった。そこで驚いたのは、空港から中心部へ至る高速道路の両脇に林立する各社の広告搭が、ほとんど黒地のトーンに変わっていたことだ。しかも市内に入りよく見ると、市民の大半が黒系のシャツや衣服を身に着け、喪に服していた。イベントや祭事も中止。何とタイ国営TVはニュース画面などのバックに暖色系の色を使い、哀悼の意を表していた。デリカシーのある欧米系の外国人の中には、黒いTシャツを身に着けている方も目立った。国民は1か月間、公務員は1年間喪に服す慣習だという。

王様は国民の心の拠り所に 王室と象はタイ国民に敬愛

以前このコーナーで、当方がバブル時代に関わっていた傲慢な雑誌で、「象と王様」
という100ページを超すタイの特集を組んだと書いた。プミポン国王の60歳の誕生セレモニーに、雑誌メディアとして世界で初めて密着取材を許されたこともお伝えした。
 しかし今だから明かせるが、いくら世界初の国王の取材といっても、100ページはもたない。そのため我々はタイ国民の精神的拠り所である国王と並ぶ存在は他にないかと模索した。そこで行き着いたのが「象」であった。神の使いで神聖な動物と崇められるこの地上最大の生き物の「象」がタイ国民とどう共存し、敬愛されてきたかを、タイ東北地方スリン県まで飛んで取材した。古来からの象使いの方々や村人たちに「象」の生態からコミニュケーションの取り方までお聞きした。そして歴史的経緯などを添えて「王様」という存在との2つテーマを特集の大きな柱にした。
 つまりタイ国民の「精神的支柱とは何か」を描いたわけだが、結果的にこれがよかった。取材の尽力を頂いた在日本タイ大使館を通じ、時のタイ政府からかなり丁重な謝意を頂戴した。どころか、この100ぺージの特集を別冊子に装丁し直し、500部ほど納品してほしいという注文までいただいた。光栄であった。事の真偽を確かめたわけではないが、この特集が故プミポン国王陛下のお目に留まった可能性を考えたからである。

国の秩序は国王が正したタイ ミャンマーは法が国を正すべき

故プミポン国王は1946年、第2次大戦が終結した翌年に18歳の若さで即位なされた。現ミャンマー国家顧問生誕の翌年である。以後70年の長きにわたり、度々起きたクーデターや政変劇で混乱した国家を正常な状態に導いた。当事者の政権トップがひざまずいて国王の許しを請う衝撃的な光景をニュース映像で何度も目にし、タイ国王の威厳の凄さを知った。
 貧しい農村地域への支援も忘れなかった。実に3,000にも及ぶ支援プロジェクトを立て、実際に活動された。だからタイでは「5世陛下」として今でも敬愛される故チュラロンコーン国王と並ぶ、歴代賢王の誉れが高い。
 昨年、日本では昭和天皇が生前退位の意向を吐露なされ、国論を2分した議論になっているが、世界を見渡しても、在位60年を超す英国女王や日本の天皇陛下を例に出すまでもなく、王制を敷いている国々は総じて平穏な国情を維持しているように思える。 
 しかし残念ながらミャンマーは20世紀初頭に王制が終焉した。だから今、国民の精神的支柱は仏教であるが、多くの大衆は「スーチーお母さん」と呼ぶほど、国家顧問への信頼と期待感も未だ根強い。だが、もし現在でもミャンマーに王制と王様が存続していたらと考えると、この国はまた別の道筋を歩んだ可能性も脳裏をかすめる。
 ごく例外を除けば、世界の王室は象徴であり、生々しい表舞台には登場しないが、価値観や思慕の違いこそあれ、多くの日本人は陛下と皇室には特別の感情を持っている。先の東北地方の大震災の被災者の方々をお見舞いされたとき、正座して同じ目線で激励のお言葉をおかけになっていた陛下のお姿は感動的だった。
 今、ミャンマーは社会的インフラ整備を筆頭に、国内では様々な問題が噴出しており、判断を誤ると国際的信用を失い、民衆からの信頼感も遠のく破目になりかねない。
 王制という精神的歯止めがないこの国で大事なことは、何人も”法”の上には立てないということをぜひ徹底させていただきたいということだ。国際社会の中で「民主国家」として厳格かつ公平な道を歩んでいけば、ミャンマーへの信頼感は必ず高まってくる。
 何か事が起きて混乱状態になれば、タイには最終的に法と社会的秩序を正していただける国王が国の頂点にいた。だから東南アジアで自他ともに認めるリーダー国となったといっても過言ではないだろう。ミャンマーは中世にはそのタイを属領にしていた。この国だって官民がその気になれば、ASEANを牽引していくだけの潜在能力はあると信じる。

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