◎特集 さすが日本主導、注目度増す 「ティラワ経済特区」の最新情報

「ダウェイ」「チャオピュー」の追従を許さないティラワの魅力と現況

目次

SEZ指定3か所の 中で一歩リード

2014年1月に「ミャンマー経済特区法」が改正され、国内3か所の工業団地計画がSEZ(Special Economic Zone)に指定された。その3つとは民政移管前の2008年から浮上し、2015年に日本が支援の意向を表明した南部「ダウェイSEZ」と、中国国有企業を核とするコンソーシアム(企業連合)に委ねることを決めた西部ラカイン州の「チャオピューSEZ」、そして日本主導の「ティラワSEZ」だ。
 その中で最も早くから始動していたのが「ダウェイ」だった。民政移管後の2012年にスタートした「ティラワ」の4年も前から動き出していた。規模的にも「ティラワ」の2,400haに対し、当初の計画では20,000haと、約8倍の面積を誇った。しかも、水深20mの深海港(ティラワは約9m)であるため大型コンテナ船の出入港が可能で、バンコクから約300㌔という地理的メリットも売りになった。またこのSEZの開発には、バンコクとダウェーを結ぶ道路計画も含まれており、仮にこのルートがつながればホーチミン、プノンペン、バンコクを結ぶ「南部経済回廊」が完成することになる。こうした物流にとってのメリットは、日系企業の注目すべき点で、当時は各国からの熱い視線も「ティラワ」を凌ぐ勢いだった。
 しかし実際の動きは鈍かった。これには両国の国内事情もあったが、最大の理由は資金面だった。ミャンマー政府とタイ最大手ゼネコン「イタリアン・タイ・ディベロップメント」(ITD)との開発契約も結局、同社の資金調達の失敗で2013年に白紙になった。「南部経済回廊」構想の道路建設も中断された。だが2年後の2015年に日本政府が開発に向けて協力する旨の覚書を緬泰両政府と交わし、再び息を吹き返す様相になってきた。
 一方、インド洋に面し沖合は天然ガス資源が豊富といわれる「チャオピューSEZ」に関して、ミャンマー政府は2014年夏に外資誘致を加速させるため官民パートナーシップ(PPP)方式で工業団地や深水港湾を整備する方針を固め、国際入札を行った。そして約10グループが名乗りを上げた。その結果、中国の国有複合企業、インフラ大手の中国港湾工程、タイ最大財閥グループなど6社でつくる企業連合が、開発権を取得した。開発面積は「ティラワ」の約3分の2の1,700haだが総事業費は数千億円規模とみられ、約10万人の新規雇用創出が見込まれている。
 この「チャオピュー」は、中国にとってはどうしても実現させたいSEZだった。それは2010年夏、中国石油天然気集団(CNPC)が着工したチャオピューと中国・重慶を結ぶパイプラインが2015年1月に完成し、エネルギー安全保障上の要衝となったからだ。

2015年に正式開業という 異例の速さ

「ミャンマー・ティラワ経済特区」(Thilawa Special Economic Zone)について、もう一度おさらいすると、ヤンゴン中心部から南東に20㌔、ティラワ国際港(河川港)に隣接し、総開発面積は約2,400ha(東京ドーム500個分)というこの国初のSEZだ。
 開発事業者は「ミャンマー・ジャパン・ティラワ・デベロップメント社」(Myanmar Japan Thilawa Development Limited: MJTD)で、出資比率は日本側49%(住友商事・三菱商事・丸紅・JICA)、ミャンマー側51%(ミャンマー政府・ミャンマー企業)。すでに周辺インフラ(発電所、送電線、コンテナターミナル等)はJICA円借款によって整備中である。
 前記2つのSEZと比べると、さすがに日本主導のプロジェクトだけに動きは早かった。スタートしてから約3年で正式な開業式典(2015年9月23日)が開催された。式典にはミャンマー側からニャン・トゥン副大統領、ウィン・ミン商業大臣らミャンマーの政財界人が、また日本からは麻生財務大臣、城内外務副大臣らが参加し、両国政府の熱の入れ方の強さがうかがえた。
 そもそもこの「ティラワSEZ」は 2012年の前半頃から日緬両政府による協議が活発化していた。それから2年後にMJTDが設立され、初代社長に住友商事から出向という形で梁井崇史氏が就任。そしてSEZ 法の改正、周辺インフラ整備に係る円借款契約の締結などが行われた。
 今でこそ人気急上昇中のティラワだが、当初は不安が一杯だったようだ。この点について梁井社長はJETRO広報誌の中で「ティラワ開発に着手した2012年はそもそもミャンマーの民主化が安定し、今後順調に経済発展していくのか判別がつかない時期でした。当然のことながらSEZ自体も必要なインフラは何も整備されていない状況。その中で最初に抱いた懸念として、①ティラワはそもそも工業団地に適した土地なのか ②インフラは大丈夫か(特に電力) ③法制度は整備されるのか といった点がありました。
 工業団地開発を行うにあたって必要な条件は様々ありますが、労働力確保、地盤、洪水の 3 点に関して言えば、ティラワはミャンマー最大の都市ヤンゴンから約20km の場所に位置していますので、労働力確保の観点からは非常に恵まれた立地といえます。地盤もボーリング調査の結果、強固であることが確認できました。最も心配なのは洪水・高潮のリスクでしたが、クラスAは平均海抜が6.5mと高く、さらにその上に輪中堤を張り巡らせることで、2008年に甚大な被害をもたらしたサイクロン「ナルギス」クラスの災害にも十分耐えうる高度を確保しました」(JETROティラワ通信より引用)と、こう述懐している。しかし、梁井氏の懸念をよそに正式開業式典以降、ティラワには邦人企業のみならず、アセアン諸国のタイ、マレーシアそして中国などからの申し込みが急増するようになった。
 この背景にはティラワSEZに投資するメリットが次第に鮮明になってきたからであろう。中でもほかの投資に比べて、①規制対象業種が 9 業腫しかない②外資比率規制がない③投資申請書の提出から認可可否までの期間が短い(外国投資法の場合、平均 4~5ヶ月を要する)④法人税や輸入関税等の減免が手厚いなどが、進出企業にとって大きなメリットになった。特に日本企業にとっては、従来の外国投資法上では外資の単独参入が実質的に困難であった事業や、流通、不動産開発業も外資100%での投資が認められる予定という情報も追い風になったようだ。事実、ミャンマー政府は今春をメドに、外資規制を大幅緩和することになったという。1月中旬の日本経済新聞の報道によれば、会社法改正で外国企業の国内企業への出資を可能にし、現在は認めていない外資の少額出資会社による土地所有や貿易も解禁するそうだ。

日本企業のレベルに合う 工業団地がない

ミャンマーにおける「SEZ」の目的は、雇用を創出し、外貨を獲得し、そして新しい技術を導入して経済、社会の繁栄を目指すものだ。しかし製造業の進出への課題はまだまだ多い。最大の理由は外国企業が安心して入居できる工業団地の不足だ。
 現在ヤンゴンには18の工業団地と34の準工業団地があり、1990年に開業した「ShwePyiTa」や2年後に作られた「South Dagon」さらに95年の「HlaingTaryar」などの大きな工業団地があるが、いずれも電力、水道などのインフラ整備が十分でなく、日本企業が求めるレベルにはない。国内で唯一、国際標準の設備が備わりすでに完売しているヤンゴン北部の「ミンガラドン工業団地」でも、24時間停電となることもあるという。
 それだけに日本政府の全面的なバックアップと経験豊富な日系デベロッパーが開発を進める「ティラワ」には、日本の製造企業からの注目も高まってきている。
 ではアセアン近隣諸国でのSEZ開発は一体どうなっているのか。2014年12月、日本とカンボジア企業のジョイントベンチャーによりカンボジアの「ポイペト」で新たに開業した経済特区の場合、3か月後に日本発条が自動車用シートの縫製部品の生産を行うと発表し、翌月には豊田通商が日系自動車部品会社の現地生産を支援するテクノパークを設立することを明らかにした。すでに 8 割の入居者が決まっている人気のSEZとなっている。ちなみにこの「サンコー・ポイペトSEZ」は、バンコクまで車で 4時間弱という位置にあり、タイの地方都市の工場から輸送するのと時間的な差がない。この点が製造業にとって一番の魅力となった。
 また、バンコクとホーチミンを結ぶ南部経済回廊沿いという好立地にあるラオスの「ビタ・パークSEZ」や「サワン・パークSEZ」からでもバンコクへは9-10時間程度。カンボジアの「コッコンSEZ」からは 6時間程の距離だ。こうしてみると、アセアンの隣国たちは、やはり一大製造拠点である「バンコク」を視界に入れたSEZ開発が主流になってきているようだ。
 またインフラ状況を見るとラオスのSEZは、カンボジアに比べ電力料金が2分の1 程度で、発電量の約8割をタイへ輸出する豊富な電力があり、停電はほぼない。加えて、ラオス政府による手厚い投資優遇措置が受けられる。「サワン・パ ークSEZ 」の法人税は、2~10年の免税期間終了後も 8%または10%に減免され、カンボジアは3~9年間20%の免税期間があるがその後通常課税されるのに比べ低率となる。
 また土地のリース契約についてはカンボジアが50年の基本限定契約だが、ラオスでは75年の契約が可能。さらに「サワン・パーク」の場合、法人所得税の免税のほかにも個人所得税の優遇措置があり、外国人駐在員を含めて経済特区立地企業の従業員の個人所得税は一律5%または7%となる。一方カンボジアの場合、SEZの内外にかかわらず、外国人駐在員は累進課税で通常20%の個人所得税を納税義務があり、この点でもラオスに優位性があるといえる。
 ティラワの場合の土地リース契約は50年で、さらに25年の延長も可能だ。また法人税の免税期間は5~7年間、その後の5年間は50%減免される。

すでに21社が操業し 年内30社も予定

「ティラワSEZ」は開発が進むにつれ、周辺の港湾、道路整備も加速し出した。約2.5㌔の距離にある「ティラワ地区港」の拡張計画もそのひとつ。
 ヤンゴンには現在ヤンゴン本港(ヤンゴン市街地StrandRd沿い)とこの「ティラワ地区港」の2つのターミナルがあるが、ミャンマーの国際物流全体の約9割をこの2港で処理している。このうちティラワ港は全長7,400mあり、現在は下記3つのターミナルが稼動している。【貨物用ターミナル】 ●Myanmar International Terminals Thilawa (MITT) ●Myanmar Integrated Port Limited Terminal(MIPL) 【船舶解体用ターミナル】 ●Myanmar Ship Breaking Yard両港とも整備改善がスタートしており、「ティラワ地区港」は合計37のプロット(ブロック)に分割されているが、「ミャンマー港湾公社」(Myanmar Port Authority :MPA) では民間会社等へプロットごとに土地を貸し出し、現在稼働中の3つのターミナルに加え、今後17のターミナルを開発していく予定だという。
 一方、ヤンゴン市外地からティラワに向かうアクセスも道路や橋の新設、改善計画が浮上。現在片側一車線で老朽化や渋滞が激しいタンリン橋の横に、新橋(4車線)の建設プロジェクトが始動。しかもこの橋から約9㌔のSEZまでの道路も、4車線に拡張される計画だという。
 先月中旬、約3か月ぶりに現地を訪れた。
全体景観にはさほど変化はないが、ティラワSEZ管理委員会、MJTD、日系三邦銀や損害保険会社等が入居するオフィスビル、職業訓練校や産業廃棄物処理場、さらにすでに稼働している工場などもあり、細部を見るとその威容が実感としてわかるようになってきた。
 現在「ゾーンA」の404haの造成・インフラ整備が完了し、入居、稼働している工場やロジステック企業などもあるが、2014年5月から販売が開始された「ゾーンA」の引き合い状況は、2017年1月現在で
●土地予約契約締結済み企業――80社
(レンタル工場予約企業2社含む)
●投資認可授与・本契約締結済み企業――75社(同上)
●工場着工済み企業―――55社(同上)
●操業開始済み企業――22社(同上)
という内容で、土地成約率は95%に及び、ほぼ完売と言っていい状況だという。年内にさらに30社の操業開始も予定される。
 また「ゾーンB」(266ha)については、現在のところ大幅なスケジュール変更はなく、特に最近では日系企業に加えてASEAN諸国やEU諸国からの引き合いが増えているそうだ。
 「ゾーンB」はミャンマー政府による土地収用が進捗しており、MJTDは土地引渡しを受けた後に速やかに電気、水道、下水などのインフラ工事を開始し、2018年半ば頃の完了をめどに進める予定だ。したがって2017年3月頃の「ゾーンB」土地の正式案内の開始に伴い、投資検討企業は予約契約を締結し、SEZ管理委員会の審査を経て投資認可の授与 、MJTDと土地本契約を締結し、一部の土地については2017年11月頃の工場建設開始という段取りになる。
「石橋を叩いても渡らない」と揶揄されてきた日系企業が、ここに来てティラワへの認識を改めつつある。SEZの生命線ともいわれる電力をはじめとしたインフラ整備も含めて、日本流の手堅さ、緻密さが形になって表れてきたためであろう。
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参考資料:Diamond Online、 The Voice、 日本経済新聞、JETROティラワ通信
「カンボジア、ラオス、タイの国境地域経済特区比較」(JETROプノンペン事務所)他
情報提供:MJTD

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