◎特集 もう「スクェアフィート」の変換計算で悩むことがなくなる? ミャンマーがいよいよ「国際単位系」を採用へ 「ヤード・ポンド法」は米国とミャンマーだけになってしまった

 先ごろ、ミャンマー政府は国際取引の円滑化を図るために「国際単位系」(メートル法)を採用する方針であることを明らかにした。情報が瞬時に行き交うグローバル時代のなかで、自国基準を国際社会の基準に合わせていかなければならない必要性が生じてきたためであろう。そこで、今回はこの「国際単位系」について考察してみた。

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国際基準に統一すればコスト削減も

ミャンマーへ来てやっかいなのは、住居や土地などを借りたり視察するときに、面積などを 「スクェアフィート」(Sq)で表示されることで、我々日本人にはすぐにそのスケールや広さをイメージしにくい。坪や平米を日常的に使用している日本人にとって、「Sq」で表示されるとそのつど変換して計算することが多い。しかしこれは慣れないうちは面倒この上ない。そうした中で邦人にとって朗報となるニュースが流れてきた。
 ローカル紙ELEVENによると、ミャンマーでもいよいよ「国際単位系」を採用する方向へ舵を切ったという。この発表を行ったのは、副農務相のPwint San博士である。ちなみにこのPwint博士は、今から4年前の2013年10月のテン・セイン政権時代に、商務省の幹部として「メートル法」の採用の準備をしていると、早くからアナウンスしていた人物である。
 現在この国ではFPS(foot-pound-second)の他にCGS(centimetre-gram-second)といった単位系も使われているが、「国際単位系」(メートル法)の標準化国・地域への輸出には、単位の変換などを余儀なくされ、余計なコストが発生していた。
 そこで国際的基準に統一すれば、米・豆・トウモロコシなど、ミャンマーの主要農産品の計量プロセスの効率化、迅速化が期待でき、コスト削減にもつながっていく。これは誰が考えても明白だ。
 「法律で整備される重量および他の単位、品質指数の基準は国際取り引きの円滑化を考慮して決められるべきだ。現在ミャンマーは欧米とも取り引きを行っており、自国の基準を相手国に合わせる必要がある」(ELEVENより)と、Pwint博士は、「国際単位系」への移行の理由をこう語っている。

中世にフランスで提唱され世界中に

「国際単位系」(International System of Units:SI)とは、メートル(m)、キログラム (kg)、秒( s)、アンペア (A)、ケルビン( K)、モル (mol)、カンデラ(cd)など、長さ、質量、時間、電流、熱力学温度、物質量、光度といった7 つの基本単位のことをさす。俗に「メートル法」などとも呼ばれ、現在では世界の標準測量単位として定着している。
 歴史的に見ると、この「メートル法」はフランスがイギリスの産業革命に対抗するためにフランス革命後の1790年3月に、国民議会議員であったタレーラン・ペリゴールの提案によって現実化した。
 当時世界では様々な単位が使用されていたがこれを統一し、新しい単位を創設することが決議された。それを受けて翌年、北極点から赤道までの子午線弧長の「1000万分の1」という定義が算出され、長さの新たなる単位「メートル」が決定、誕生した。
 この時の測量はダンケルクからバルセロナの距離を経線に沿って三角測量で測定し、その値を元にして計算が行なわれたという。また質量についても、このメートルを基準として、1立方デシメートルの水の質量を1キログラムと定めた。他に、面積の単位としてアール(are, 100平方メートル)、体積の単位として固体用のステール(stere, 1立方メートル)と液体用のリットル(litre, 1立方デシメートル)を定められた。
 しかし作業を開始したフランスでも、すでに使用されてきた単位系があったので反対者も多く、すぐには定着しなかった。結局47年後の1840年に「以後は『メートル法』以外の単位の使用を禁止」する旨の法律が施行され、公文書に「メートル法」以外の単位を使用した場合は罰金が科せられると明記され、急速に普及していった。
 その後1867年のパリ万博の時に、各国の学者が集い、「メートル法」による単位の国際統一をする決議を行った。そして8年後の1875年に「メートル法」導入にあたって各国が協力して努力するという主旨の「メートル条約」がようやく締結された。
 こうした動きに対して「ヤード・ポンド法」を標準化していたイギリスはこの「メートル法」の採用に難色を示し、採用しなかった。兵器や産業機械の分野で世界をリードしていたイギリスは、もしフランスの「メートル法」を採用すれば、兵器の規格までがフランス主導で決定されることになり、技術的優位性や市場を失う危険性を考えたからだという。
 ところが時代のすう勢には勝てず、そのイギリスでも1995年にメートル単位系に移行し、「ヤード・ポンド法」は一部を除いて2000年から使用禁止となった。しかし現在でもかたくなに「反メートル法運動」を掲げる人々たちがあちらには存在するのは事実だ。

単位変換ミスで火星探査機が崩壊した

イギリスの植民地であったミャンマーは、米国やアフリカのリベリアとともに、いまだに「ヤード・ポンド法」を使用している世界でわずか3か国になった一つである。正確に言えば、リベリアでは民間主導で「メートル法」への移行が行われ、今では「ヤード・ポンド法」はほとんど使用されていないという。したがって残るはミャンマーと米国だけとなった。その米国でさえ1975年以降から「メートル法」を併用しており、政府部内では、「メートル法」へ移行すべきとの勢力も存在するという。そうなると、 「ヤード・ポンド法」に固執しているのは世界中でミャンマー一国だけとなる恐れも出てきたのだ。
 米国はすでにメートル法条約に加盟している。フォード政権下の1975年にメートル法移行法(Metric Conversion Act)が可決されたが、レーガン政権になると、移行政策は頓挫した。市販される商品のパッケージなどには、「ヤード・ポンド法」と「メートル法」の並記が普通に行われている。
 しかし自然科学の分野以外ではいまだに 「ヤード・ポンド法」が広く用いられているのも事実で、この状況に対して米政府部内でも「メートル法」への移行を強く主張する勢力が台頭してきている。それは1999年9月23日に起きた火星気象探査機「マーズ・クライメイト・オービター」の崩壊事故の教訓からだという説もある。
 「オービター」は1998年12月11日に地球の気候変動調査のためにNASAによって打ち上げられた。ところが338キログラム(745ポンド)のこの探査機は航行上のミスにより、予定されていた火星の上空140-150 kmの軌道を外れ高度57kmの軌道に乗ってしまった。そうなると高低差での大気による摩擦と圧力に耐えられず破壊された。
 調査委員会によるとこの事故の原因は、地上局での一部の計算が「ヤード・ポンド法」で行われていたが、それを「メートル法」による単位で予期していた探査機の航行担当チームに単位変換をせずに報告されてしまったことが原因だと発表。
 探査機は2つの単位システムの間を変換するようには設計されていなかったのだ。この単純な単位系の混同、変換ミスで、米国は300万ドル(約3億3,000万円)を喪失したという。

日本は約半世紀前に 「メートル法」が定着

「国際単位系」は今や世界共通の測量単位になっているが、国によっては独自に使用してきた伝統的な慣習があった。お隣の中国では、紀元前1000年以上前の殷の時代(日本は縄文時代)に、中国を統一した秦の始皇帝が強い意志を持ってこれを大々的に行った。日本ではそれから時代を経て中世になってあの秀吉が度量衡の統一を図っている。
 こうしたかっての統治者たちは、単位が共通でないと商取引の際に不便が生じ、誤解や係争を引き起こしかねないため、度量衡の統一を図ってきたのだ。当時、長さの単位は人間の体の大きさを基準にしたもの多かった。たとえば足の長さをもとにしたfoot(feet、約30cm)は、踵からつま先までの大きさだという。尺(約30cm)は指を広げたときの状態で、“尺”の漢字がそれを表わしている。
 日本では“度”は長さ、“量”は体積、“衡”は質量を表わしている。日本は、フランスで正式に施行された45年後の1885年(明治18年)にメートル条約に加入。1891年(明治24年)に施行された「度量衡法」で「尺貫法」と併用する形で導入された。
 それに伴い、新たに米(m)、瓦(g)、立(L)といった基本単位の漢字を当て、補助単位の漢字として籵(dam)、粨(hm)、粁(km)、糎(cm)、粍(mm)、瓱(mg)、竏(kL)、竓(mL)など漢字を創作し、「メートル法」の迅速な普及に努めた。
 1921年(大正10年)には同法改正で「尺貫法」を廃止したが、使い慣れた単位から「メートル法」へ移行することへの庶民による根強い抵抗にあった。そのため本格的な普及は、「メートル法」の使用を義務付け、「尺貫法」の使用を法的に禁じた1951年(昭和26年)の 「計量法」施行以後であった。つまり「メートル法」の完全実施へは1966年4月1日までかかったことになる。

いまだ重宝がられる日本の「尺貫法」

近年、世界共通の単位として定着した「国際単位系」は、経済、国際交流の発展に大きく寄与しているが、これ以外の単位はまったく無用の長物になっているかといえば、そうとは限らない。
 いい例が日本である。現在は「国際単位系」に準拠しているが、今から約60年前の1958年までは「尺貫法」と「メートル法」が共存していた。特に古来からの日本の木造建築(畳の大きさが一つのユニット)や、和服の長けや寸法などは尺貫法の方が合理的であったし、21世紀になった今でもその意識は根強く残る。また日本酒党には1合、1升といった単位のほうがしっくりくるし、何合炊きで表示される炊飯器の容量などはまだ日常的に使われている。他にテレビの大きさがまだインチ表示なのに抵抗がないのは不思議だ。
 スポーツの世界でもまだ「ヤード・ポンド法」表示に違和感がない種目もある。メジャーリーグの投手の球速はマイル(miles per hour)表示の方が凄みが出るし、飛ばし屋のゴルファーの豪快なショットは、300ヤードドライブ(約274メートル)などとアナウンスされた方が実感が湧く。
 またキングオブスポーツと呼ばれる競馬の世界でも、いまだにハロン表示が日本でも使われている。一周のラップを計るときに約200メートルごとに立てられたハロン棒を目安に、流れが速いか遅いか判断される。また、今でも「マイル・チャンピオンシップ」などというG1レースが存在する。伝統的に英国王室も関わる競馬に限らず、英国が生んだゴルフにしてもヤード表示が常識になっているようだ。
 しかし問題なの前記の火星探索機ではないが、数値を読み違えて命の危険性にさらされることがあることだ。「国際単位系」では圧力はPa(パスカル)で表示するといっても、日本の医療現場では従来から今日までずっとmmHg(水銀柱ミリメートル)が使われている。かりに血圧が100とすれば100mmHg(約133hPa)のことになるが、血圧数値を読み違えたら生死に直結する場合もある。だから日本の医療現場ではいまでもmm Hgを使用し、パスカルとの併用も行われているそうだ。
 経済活動が急速に国際化している現状では、ある国で作った部品を他の国、地域で組み立て完成させる場合には、そのつど異なる単位系の換算を行っていては効率が悪く、事故にもつながりかねない。だから、世界共通の「国際単位系」の導入は必然といえよう。すでに科学の世界では、論文の表記はすべて「国際単位系」にしないと受け付けてもらえない時代に入った。
 ミャンマーでも紙幣を数える単位で10万Ksのことを1Lucという場合がある。他にも穀物などを数えるときに使う独特の表示単位がある。だから「国際単位系」に移行するには時間がかかるかもしれない。しかし国際化や経済の発展の速度に合わせていくには乗り越えないといけない重要な課題ではある。余談だが、もし米国が「メートル法」を法的に義務付けたとしたら、マクドナルドの「クォーターパウンダー」(1/4ポンド)の商品名は一体どうなるのか。「113グラムバーガー」というネーミングにでもなるのだろうか。あるいはボクシングの選手紹介で体重を「ポンド」ではなく「キログラム」表示でアナウンスするようになるのだろうか。
 しかし、こうした聞き慣れた単位表示は無理に変更しなくてもいいのではないか、それがすでに伝統慣習になっているのだろから。

Myanmar to adopt metric system、ELEVEN NEWS
山賀 進(Yamaga Susumu) ©2002-2017

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