今月の視点 経済の活性化を妨げる「ドルピン札至上主義」を即刻やめよ

狂乱の水掛祭りも無事に終わり、ミャンマーは新年を迎えた。毎度のことながら、軽トラの荷台に乗って放水の雨を浴びながら歓喜する若者たちを見ていると、「若さやなぁ」とやや執妬めいた感情を持つ。

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水祭りが終われば日本の10連休到来 5月に新天皇即位と元号が改まる日本

 狂乱の水掛祭りも無事に終わり、ミャンマーは新年を迎えた。毎度のことながら、軽トラの荷台に乗って放水の雨を浴びながら歓喜する若者たちを見ていると、「若さやなぁ」とやや執妬めいた感情を持つ。歳のせいか、ここ数年は40度という日中の温度計を見ただけで外出するのでさえ尻込みしてしまうからだ。
 長いミャンマーの正月休みが終われば、今度は10連休という長期にわたる日本の黄金週間が到来する。今年は天皇陛下の退位に向けた特例法の定めにもとづき、政府は「4月30日陛下退位、翌5月1日皇太子さま即位」という日程を決め、5月1日を祝日と決めたからだ。
 これにより、生涯、天皇制度が導入された明治以降では、江戸後期の光格天皇以来約200年ぶりに、初めて天皇退位が実現することになった。
 また今月5月からは、天皇陛下が「上皇」に、皇后さまが歴史上使われたことがない「上皇后(じょうこうごう)」となられるほか、秋篠宮さまは皇位継承順位第1位を意味する「皇嗣(こうし)」となる。
 5月1日から元号も「令和」と改められた。こうした歴史的な日に、僭越ながら弊紙ヤンゴンプレスも創刊6周年を迎えることができた。日本語版の号数でいえば71号にもなり、6年間の延べ印刷部数もゆうに100万部を超えた。創刊当初はここまでやれるなどとは思ってもいなかったので、まさに感無量である。これもひとえに読者の皆様及び広告クライアント様方のご支援の賜物と改めて感謝を申し上げる次第である。

5年後に新札への切り替えが いまだ衰えぬドル至上主義

 改まるといえば、日本の紙幣も5年後には新札が登場することになった。すでにご存知のように一万円札が渋沢栄一に、五千円札が津田梅子に、そして千円札が北里柴三郎というラインナップになる。当方の世代は聖徳太子が神様にように見え、諭吉翁も慣れ親しんできただけに、違和感がとれるまでには少し時間がいるだろう。ただ、印刷技術が格段にアップした今、偽造不可能な最新の精度に裏打ちされた紙幣になるという。
 これはこれで歓迎すべきだが、しかしよく考えてみれば、いくら精度を上げたところで、所詮、紙は紙である。1万円札1枚にかかる印刷経費が30数円というから、我々はまさにその紙を通貨として発行する国家の信用力を買っているに他ならない。
 その観点から言えば、米国ドルはいまだに絶大な信用力を持っている。ミャンマーでも、ドルならどこでも、たとえば一般の個人でも気軽にチャットに替えてくれるが、円は両替所でも不可のところが存在する。ミャンマーの田舎に行って万札を提示しても、見たこともないという方々に出会うことがある。世界第三位の経済大国の公式紙幣にも関わらずである。
 かって50数年前に当方が初めて海外へ出たときのドルの価値は、それはすごい神通力があった。外貨準備に追われていた日本でさえ、観光旅行の場合、500㌦という持ち出し外貨制限があった。当時訪れたソ連や東欧などの社会主義国では、仮に1㌦のチップを上げたら下にも置かぬ歓待をされたものである。ましてアジア、アフリカならこちらがどんなに見すぼらしい格好をしていても、外国人とわかれば「ダラー、ダラー」と、貧しい子供たちに取り囲まれた。
 それから半世紀以上が経ち、日本が世界有数の経済力を付け、中国元の威力も増大してきた今、「ドルもかっての威力を失ったか」と思っていたら、ところがどっこいドルの価値は少しも衰えていないことが、アジアに暮らしていると実感する。
 過去何度か訪れたカンボジアでは自国通貨の「リエル」はさておき、商取引や支払いはほぼドルといってもいい状態になっている。ミャンマーだって、いくら政府がチャット決歳の遵守を声高に叫んだところで、現実的には航空券、ホテル宿泊料、旅行代金、高級住宅の家賃他、ドル建てになっているものが少なくない。

100㌦のピン札以外はレートが下がる怪 ドルは動産という富裕層の考え方に疑問

 しかし、解せないのは、この国がいまだにドルの「ピン札至上主義」に固執していることだ。しかも100㌦のピン札が最高レートで、少額になるにつれレートは悪くなる。その100㌦でも汚れ、折り曲げ、スタンプ印、書き込みなどがあればレートが下がり、極端に古い紙幣は両替すらしてくれない場合もある。
 当方が米国で暮らしていた時は、新札は偽造紙幣ではないかと商店などでは綿密に検査された。だから使用するときはあえてクシャクシャに折り曲げたり、手の垢を付けて丸めたりして使用したものだった。
 むろん、日本や隣国のアセアン諸国でさえ、ピン札や少額紙幣によってレートを変える国はない。仕方なく、ミャンマーで両替不可のドル紙幣は、手元にためておいて他国で使用する破目になる。
 弊紙は皆様の広告料金で維持させていただいているが、時々、ババ抜きの「ババ」を頂くことがある。むろん、弊紙はこの国の銀行や両替所のように、何か汚らしいものを見るような態度で突き返したりはしない。ありがたく頂戴する。そして保存となるが、家賃や取材時の航空運賃はドル建てなので、ほかで使用できないと分かれば、これはつらい時がある。
 こうした汚れた紙幣で支払おうとしても、偉そうに受け取りを拒否されるからだ。「ドルには変わりはないだろうが」と、来緬当初はかなり抗議したが、どこも明確な理由を言わない。いや、末端のスタッフでも、なぜだかわからないようだ。
 当方も長らく疑問に思っていたが、昨年懇意にしている両替所の親爺が、「ドルは動産なんだ。金や宝石あるいは高級車などと同じ資産として考えている。もっとわかりやすく言えば有名な絵画や美術品のようなものだね。だから破損や汚れなどを嫌うんだよ。新品の状態が一番いい。金持ちはこうした新札のドルをため込む。」という話をしてくれた。
 これだけの理由が真実ではないだろうが、なるほど、さもありなんと思った。だからいくら自国のチャット紙幣が汚くとも、こうした利己主義に走る富裕層の人達には関係のないことなのかもしれない。
 しかしこれで本当にミャンマーはよくなるというのか。国家に外貨準備が蓄積されるならともかく、個人がドルのタンス預金に精を出していて、どうしてこの国の経済が活性化されていくというのか。
 初めてこの国を訪れた外国人だって、汚れたドル紙幣でレートを下げられたり、突き返されたりしたら、「一体、この国はどうなってんだ」と印象を悪くするに違いない。だから「ドルピン札至上主義」という悪しき慣習は即刻廃止すべきだ。
 日本でも今回の新札発行によって30兆円ともいわれるタンス預金を市場に吐き出させ、経済効果を期待する向きもあるが、ミャンマーの場合はまずチャットの信用力を高めていくことが先決であろう。それにはとりもなおさず、輸出を中心に経済力と信用力を付けることを官民を挙げて真摯に取り組むべきなのだ。
 比較をするのは本意ではないが、日本は戦後10数年余りで海外渡航でも厳しいドル持ち出し制限を敷き、輸出を奨励して外貨の準備高を増やしていった。そして「円」の信用力を付けていった。方法論と状況は異なるが、ドイツでも中国でもそうして国力を付けた。
 いずれにしても、海外の両替所にチャットのレート表示が点灯される日はいつなのか。当方はその時が一刻も早く来ることを願ってやまない。

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