ミャンマー人の肖像 第16回 U Thant Zin Tun タン・ジン・トン MGS Group Vice Chairman

ミャンマー在住邦人の中でも、「MGS Group」の名を耳にしたことのある方は少なくないかもしれない。正式名は「Myanmar Golden Star Co. Ltd」で、いまや食品、アルコールおよびソフトドリンク、銀行業、医療サービス、農業、天然資源、鉱業、航空業、電気通信、家電取引および流通、小売業、ホテルおよび不動産など、まさに多角的な事業を手がけているミャンマーの一大財閥グループである。

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英国、米国留学で培った国際感覚を持つ財閥企業の実業家 ペプシ、Hard RockCafeなどの誘致でトレンドを読む才に優れる2代目実業

 ミャンマー在住邦人の中でも、「MGS Group」の名を耳にしたことのある方は少なくないかもしれない。正式名は「Myanmar Golden Star Co. Ltd」で、いまや食品、アルコールおよびソフトドリンク、銀行業、医療サービス、農業、天然資源、鉱業、航空業、電気通信、家電取引および流通、小売業、ホテルおよび不動産など、まさに多角的な事業を手がけているミャンマーの一大財閥グループである。
 同社は、伝説的な実業家として知られるU Thein Tun氏(現会長)によって1989年に創設された。今年82歳になる会長には2人の息子さんと娘さん1人がいるが、今回紹介するU Thant Zin Tun氏は長男であり、現在、会長に代わって実質的にこの財閥グループの指揮を執る実業家である。
 MGSの有名な事業の一つは、2013年2月にデンマークのビールメーカであり、世界第4位のシェアを持つCarlsberg とMGS Breweriesが合弁会社を設立したことだろう。そして同年10月に約7,500万ドルをかけてバゴーに醸造所の建設をスタートさせた。3年後の2015年5月7日、醸造所はCarlsberg、Tuborg、そしてミャンマーに特化したYomaというブランドの生産を開始した。
 当時MGSの副社長だったThant Zin氏は、実質的この合弁劇の陣頭指揮を執った。「業界のリーダーとして、カールスバーグはその専門知識、革新性に優れ、国際標準を取り入れていた。念願のビール醸造所の建設とその流通ネットワークができると、約2500人の新たな雇用が生まれましたね。」
 合弁会社Myanmar Carlsberg Co. Ltdの代表取締役社長に就任したThant Zin氏はこう述べた。
 「カールスバーグはプレミアム商品として販売されましたが、ミャンマービールやマンダレービールなどの地元のブランドと競争するため2、3種類のビールの開発が必要でした。MGSと
Carlsbergはすでに20年の関係になりますが、この提携は1年にわたるプロセスを経た集大成だったと思っています。」と述懐する。
 ビール事業が一段落すると、ThantZin氏は、2014年、韓国に拠点を置くLotte Chilsung Beverageと、ペプシコーラを含む炭酸飲料と清涼飲料を生産する合弁事業に着手した。
 ロッテサイドが70%、残りをMGSが出資し、合弁事業の資本は100万ドルとなり、ネピドーのミャンマー投資委員会(MIC)の承認を間髪をいれずに取得した。
 「ロッテグループは、前年の2013年にロッテリア1号店ヤンゴンにオープンしていました。これを皮切りに、直営店を増やしていきました。ロッテグループの関係者は、『新興国市場に進出する際は、飲食事業をまず進めて認知度を積んだ後、化学、建設など他の事業にまで拡大する戦略』と豪語していたね。」と、Thant Zin 氏は当時こう語る。
 次々に欧米の飲料ブランドと提携していくMGSの戦略は、ミャンマー企業では珍しくダイナミックで先見性に富んでいるが、彼はこれで満足したわけではなかった。2016年、ヤンゴンの新名所となった「ミャンマープラザ」の屋上階に、あの「Hard Rock Café」をオープンさせてしまった。こちらも日本の飲食チェーン運営会社WDI(東京都港区)の香港子会社との合弁会社「MGS―WDIダイニング」が運営に当たっているが、むろん誘致に積極的に動いたのはThant Zin 氏であった。
 合弁会社は資本金100万米ドル(約1億1,000万円)で、WDI子会社が30%、MGSが70%を出資した。店舗面積は853平米もあり、カウンターやテーブル席が計192席で、バンドがライブ演奏できるステージや個室も備えている。
 「Hard Rock Café」は、1971年、英国のロンドンに誕生した米国風レストランバーで、いまや世界の主要都市に展開する一大飲食チェーン。若者を中心にひとつのトレンドを提供した。

 MGSは、米国の経済制裁対象から外れた優良企業であり、創業者で父の Thein Tunは、1994にTun商業銀行(現Tun Commecial Bank)を設立。そしてミャンマー銀行協会の会長の要職にもついた。さらにゴールデンミャンマー航空会社の役員にもなり、2014年にはミャンマータイムを所有するミャンマー統合メディアの株式の過半数を取得し、メディア事業にも乗り出した。
 「ビジネスチャンスというものは待っていても来ない。勝負、決断するときはもたもたしていてはだめなんですよ。チャンスを逃します。」
 尊敬する父の事業拡大を側面から支え、MGS Groupをミャンマー有数の巨大企業に押し上げたThantZinはこう熱弁をふるう。
 しかしいろいろお話を聞いていると、彼の事業センスはとてもミャンマー人のものとは思えなくなった。たとえばこの国の財閥のトップだとしても、ビールやぺプシあたりならともかく、通常は欧米のトレンドである「Hard Rock Café」までは事業対象として考えられない。このあたりの発想の原点はどこにあるのかとお尋ねすると
 「中学、高校は英国でした。大学はアメリカです。若いときに欧米のカルチャーに触れたことが私の原点にあります。もちろんビジネスのやり方もそうです。あちらはこれと思ったら、非常に攻撃的に事業を進めていく。随分勉強になりましたよ。」
 なるほど、だからミャンマー人には珍しく、訛りのない流暢な英語をお話しになっていたのかと納得がいった。
 「最近、バガンに新しい『Bagan star Hotel』を作りました。観光、リゾート事業にも力を入れていこうと考えています。ミャンマーはまだまだ可能性を秘めた国ですから、ビジネスチャンスはいくらでもありますよ。」と語るThant Zin氏の表情は自身に満ち溢れていた。
 インタビューは彼がすべてを手がけた「Hard Rock Café」で行ったが、「ここにいると落ち着くよ」と実に満足そうな笑みを浮かべた。ミャンマーにもこうした国際的なビジネス感覚を持つ実業家がいたことに安堵した。

Thant Zin Tun 略歴 ヤンゴン生まれ。英国、米国留学後にMGS groupに入社。 現在副会長として父親のU Thein Tun会長を補佐。 Lotte MGS Beverage Co. Ltdの Directorをはじめ、グループ企業の数々の要職を兼務している。
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