特集 陸路で泰緬国境を往

民政移管以降、国境地域の規制がだいぶ緩和されてきた。特に顕著なのが数箇所あるタイとの国境地帯である。ミャンマーに来てから、頭の片隅に「いつか陸路を越えて入国してみたい」という願望があった。

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バンコクからダウエーまで約340㌔の小旅行

民政移管以降、国境地域の規制がだいぶ緩和されてきた。特に顕著なのが数箇所あるタイとの国境地帯である。ミャンマーに来てから、頭の片隅に「いつか陸路を越えて入国してみたい」という願望があった。それがついに実現した。そのひとつのバンコクからカンチャナプリを経てミャンマーへ入国するルートは、ダウエーまで約340㌔、約7時間半の旅だった。この行程を終えたとき、ダウエーを中心としたタニンダリー管区が、すでにタイ経済圏にあることを実感した。

あと57㌔の道路修復が終われば 「南部経済回廊」が完成へ

 今回通ったルートは、バンコクから西のカンチャナプリ県まで行き、そこからタイ側プーナムロンの国境を越えてミャンマー側のティキまで入り、タニンダリーの管区都であるダウエーまで走破する行程である。
 正確に距離表示を書くと、バンコクからカンチャナブリまでが125㌔カンチャナブリからプーナムロン村を経て国境イミグレまで約60㌔、さらにタイ側イミグレからミャンマー側イミグレのあるティキまで5km、ここからダウェイまで直線距離約93㌔で計283㌔の勘定だが、ティキから途中のミタまではほとんどが山道で、カーブが多く曲がりくねった未舗装道路なので、直線距離57㌔だが、実際の走行距離に直すと、おそらく60㌔くらい余計に走らねばならない。
 ちなみに340㌔といえば、東京から名古屋までの距離に相当し、東名高速を使えば3時間半である。むろん道路状況は全く異なるが、それでもバンコクから泰緬国境まで3時間、緬側国境の町ティキ~ダウエー間が約4時間半という所要時間で、結論からいうと、国境での出入国審査所要時間(合計約30分)を除けば、バンコク~ダウエー間は7時間半で走破可能だった。
 実はこの行程はすでにご存知のように「南部経済回廊」のルート上にある。ホーチミンからプノンペン~バンコク~ダウエーを結ぶ東南アジア諸国の物流にとって、非常に重要なルートなのだ。そうした意味もあって、現状は一体どうなっているのか、またどの程度まで進行中なのかを、タイ、ミャンマー双方のキーパーソンの話を聞きながら、検証を行った。

カンチャナプリのキーパーソンに聞く

 Panya会頭は当地経済界の実力者だった。文中にあるミャンマー側ティキの町のカジノホテルの大半の事業に関与し、仕切っている。「ご存知のように『南部経済回廊』が完成すれば、国境貿易、物流のみならず、回廊沿いの観光事業も活性化していきます。ティキにカジノ付きホテルを建設したのも、そうした将来性を見込んでのことですよ。2年後には750室のカジノ付き高級ホテルができます。遠くない将来には、この町に11のカジノ付きホテルの建設を予定しているんです。そうなるとカンチャナプリのみならずミャンマー側の経済も潤っていくはずです。」
 会頭はのっけから実に壮大なプロジェクトについて語りだした。これは初耳だった。日本人でもこの動きを知る方は少ないだろう。しかしそのためにはミャンマー側の道路の修復を早く完成させないけないが、この点については 「ご指摘の道路修復工事は今年の8月からスタートします。大体24か月で終了すると思います。工事はイタリアン・タイがやります。もちろん費用はすべてタイ政府のバーツ借款になりますから問題ありません。完成後はダウエーまでの距離が縮小され、まずメコン地域の物流がダウエー港に流れていくでしょう。特にシンガポールやマレーシアは相当数のコンテナをダウエー港に集積するようです。将来はバンコク港に匹滴する規模になるのではないか。何しろインド、中東へのルートとしてはダウエーのほうが有利ですから。」
 カンチャナプリ経済界の重鎮が語る言葉だけに、非常に重みを持って聞こえた。確かに、実際にバンコク~カンチャナプリを走破してみて、道路事情さえ改善されれば、この地域の発展の度合いは加速していくだろう。

カーンチャナブリ県の案内

<位置>バンコクから西へ約125㌔●面積:19,483km²●人口: 84.82万 ●市外局番: 034 ●県内・市内交通市内から各郡へは、路線バスが運行しているが、本数が少ない。カンチャナブリ市内は三輪車(サムロー)などが走っている。●名物・特産品 サファイア、さとうきび、ヘッドコーン(キノコ) <行き方>●鉄道バンコク市内トンブリー地区のバンコク・ノイ駅発、カンチャナブリ経由ナムトック行きが1日2本[カンチャナブリまで所要約2時40分/ナムトックまで所要約4時間半]。土日祝日には、フアランポーン駅6:30発の特別列車が運行。●バス バンコク南バスターミナル発[1等は所要約2時間]。●タクシー バンコク市内から2000~2500バーツ、国境まで3000バーツ。●ミャンマー側ティキからダウエーまでタクシーチャーターで約600バーツ、または3万Ksが相場 

泰緬国境の出入国で日本人観光客はビザなし越境が可能

 バンコクの中心部のホテルを朝7時半に出発した。別掲したように、カンチャナプリまでは約125㌔で約2時間の距離だ。時間に余裕があれば、列車かバスを使えばはるかに安く済むが、今回はタクシーをを利用した。交渉すると3000バーツ(約1万円少々)で、チップを入れても3人で割れば、一人3500円程度だった。
 このタクシー利用は後で考えると正解だったが、バンコクの朝の激しい渋滞は想定外だった。同伴者のホテルが異なっていたため、中心部のホテルでピックアップするまでにかれこれ1時間半を要してしまった。つまり、バンコク中心部を抜けたのが9時ころになってしまったのだ。
 それでもバンコク~カンチャナプリ間の道路は快適だった。全線ほぼ3車線で、さしたる渋滞もなく、約2時間で着いてしまった。道中にはマック、KFCやセブンイレブンなどのコンビ二に加え、広い駐車場付きの大型スーパーなどが立ち並び、まるで日本の郊外道路を走っている景観が続いた。
 カンチャナプリはミャンマーに隣接する県だが、国境イミグレのあるプーナムロン村までさらに約60㌔、約1時間ほどは走らねばならない。だからバンコクからバスや列車だと、カンチャナプリからこの国境まで再びバスかタクシーを捉まえる必要がある。これが意外にやっかいだ。
 しかも、タイ側イミグレを抜けても、ミャンマー側イミグレのあるティキまで5kmもある。パックパッカーらしき若者は炎天下を歩いていくが、徒歩だと1時間はかかる。通常はタクシーかバイクを拾うが、台数が少なく多少時間がかかるようだ。
 幸いなことに我々取材クルーはダウエーのグリーンフィルド経済政治研究所の岩澤康晴代表が懇意にしているHotel Daweiの Executive Directorである Mark Uthain Hangam氏が、タイ側まで出迎えてくれたので実にスムーズにミャンマー側国境のティキまで行けた。
 国境のタイ側のイミグレの出国手続きもほんの2,3分で終わった。ミャンマー側も現在日本人は観光ビザが不必要になったので数分で入国できた。ただし、過去にビジネスビザで複数回出入国履歴のある方が、観光で入国するときは注意が必要だ(別掲参照)。
 国境のイミグレといっても、どちらも質素で、係員が数人ほどいるだけ。とくにミャンマー側はPCもなく、記帳はすべて手作業で行うアナログの世界である。もちろん手荷物検査もなく、入国が終われば、車に乗ったまま通関などを済ませることができる。
 しかし道路状況は一変した。タイ側は国境まで素晴らしい舗装道路が完成していたが、緬側の町ティキからダウエーに至る手前57㌔のミタまでは、ほとんど未舗装の砂利道で、相当の揺れを覚悟しなければならない。
 しかしすでに弊紙が何度か既報したように、このルートは「南部経済回廊」上にある。別掲したカンチャナプリ商工会議所会頭も述べているように、タイ側の経済界もこのダウエーまでのルートを重要視し、その完成を待ち焦がれている。
 だからこのミャンマー側ティキから途中のミタの町までの未舗装部分約57㌔の舗装が完成すれば、回廊は完結する。現在悪路で山道のため時速30㌔くらいしか出せず、約3時間もかかっているこの区間の走行時間が少なくとも半分に短縮され、将来的にはバンコク~ダウエー間は5時間半で走行可能となるのだ。ちなみにヤンゴンからダウエーまでバスだと約半日かかる。その半分以下でバンコクまでつながるわけだから、回廊沿いにあるメコン諸国が熱い視線を送るのも無理はない。

カジノホテルの建設ラッシュを演出するカンチャナプリの経済

 観光的な面から見ると、エラワンやサイヨーク国立公園などを擁し、山と渓谷美あふれる風景明媚な自然の宝庫として知られるカンチャナブリは、敬虔な仏教徒であるモーン族やカレン族の人々が昔ながらの素朴な暮らしを営んでいる。数々の遺跡も発見され、先史時代からクメール帝国時代の歴史を伝えるこの町の名を世界に知らしめたのは、先の大戦にまつわる映画「戦場に架ける橋」だった。
 クワイ・ヤイ川に架かる全長約322mのクワイ川鉄橋は、日本軍が敷設した泰緬鉄道が通る橋で映画の舞台になった。クワイ川鉄橋や蓮吾軍が眠る墓地など、周辺に点在する戦争関連施設の見学のほか、鉄橋の途中にある待避場所で通過する列車を見ることもできる。また、カンチャナブリ駅から終点のナムトック駅まで敷設された鉄道路線のほか、鉄橋付近には連合軍共同墓地などが点在し、戦争の悲惨さを今に伝えている。
 しかし今回驚いたのは、国境を越えたミャンマー川のティキの町にカジノ付きホテルがオープンしていたことだ。すでにタチレクや南のコータウンの富豪島などには存在するが、この国境には初のカジノホテルだった。しかも、現在、山の傾斜地に750室のカジノ付き4つ星ホテルを建設中で、前記した未舗装道路の修復が終わる予定の3年後には、計11のカジノ付きホテルの建設が予定されているという。むろん事業を主導しているのはカンチャナプリ県で、すでにオープンしているカジノホテルには平日にもかかわらずタイ人観光客で賑わいを見せていた。
 回廊の終着点となるダウエーも今回再び訪ずれ、日々変化していた。2018年1月31日に「ダウェーSEZ」のすぐ北側に大規模LNG火力発電所の建設を決めたフランスのTOTALとその発電所の建設に当たるドイツのSIEMENSのスタッフたちが相次いでダウエーにやってきて準備を開始した。3年以内に615メガワットを発電し、4年以内に1230メガワットの発電を可能にする予定だという。
 ダウエーにはタイ、ベトナム、中国などからの視察、調査も増えてきているという。そうなると問題は外国人用の住宅。ヤンゴンやマンダレーのようにサービスアパートやコンドがない。現在外国人ビジネスマンは、ホテルの長期滞在を余儀なくされているという。
 これから日本人も増加することが予想され、発想を転換してダウエーの将来性を見越して、この地にそうした外国人用の住宅建設に投資することも考えてみる価値はありそうだ。

泰緬国境での注意点

 日本国パスポート所有者の国境での出入国は、ミャンマーからタイ側への入国、またタイからミャンマーへの出国は特に問題ない。注意すべきはタイからミャンマーに入国する場合で、パスポート期限が6か月以上あれば、観光の場合は時間がかからない。しかし以前ミャンマーの観光ビザ以外のビザを取得し、旅券にその履歴がある場合で観光で入国しようとすると、少々チェックが厳しくなる。本当に観光目的なのかどうか、調べられる。特に前回ミャンマーを出国した時点でのビザが観光以外だったら、観光ビザでの入国の有無が審査される。この場合真の目的が観光以外なら、バンコクのミャンマー大使館で当該ビザを取得していったほうが無難だろう。

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