◎今月の視点 「ミャンマーバブル」は去った。 本気で観光客誘致を考えぬと行く末は危うい

インフルエンザ騒ぎで揺れたミャンマーは雨期真っ只中だが、7月に入ってやけに雨の日が多くなった。

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公共サービスが目に付くヤンゴン まだ少なく不満が残る英語の表記

インフルエンザ騒ぎで揺れたミャンマーは雨期真っ只中だが、7月に入ってやけに雨の日が多くなった。例年ならまず午前中は晴れて、午後に天気が崩れるというパターンだったが、今年は夜半から降り出し、終日雨の日が珍しくなかった。
 日本でも北海道で35℃を超す猛暑になったという驚くべきニュースが流れ、氷山の溶解が止まらず南極周辺の水位がまた上昇したという現象も耳にした。やはり温暖化ガス排出の影響による地球規模の異常気象なのだろうかと、不安になる。我々の孫の世代やそのあとの行く末が心配だ。
 ところで最近ヤンゴンの街を歩いていると、知らぬ間に歩道橋が完成していたり、旧国会議事堂前のPyay Rd 沿いに「雨に注意!」などと注意事項が表示される電光掲示板ができている。交差点の信号機にも待機時間が表示され始めた。いつの間にか、市民への利便性を高める細かい公共サービスが出現しはじめた。
 それはそれで歓迎すべきことなのだが、我々外国人にとっては、町名や道路標示に英語表記が少ないのが何とも残念だ。特に初めて訪問する場所が、幹線道路から小道に入る場合、その小道に道路標示があるところが少なく、仮に存在したとしてもミャンマー語表記ではお手上げだ。その道が正しいのかどうか、いささか不安にもなる。
 地方に行けばその傾向はさらに顕著になる。これではミャンマー人がそばにいないと、外国人は遠出ができない。いくら国際化を叫んでも、こうした細かいところに配慮していただかないと、本当の意味でのグローバル化は実現できない。

昨年大きく落ち込んが観光客数 タイはGDPの10%を占める観光業

ミャンマーは豊富な観光資源に恵まれ、観光客誘致への大きなポテンシャルを持っている国であることは確かだろう。そのため2011年からの民政移管で、観光客や外国投資の受け入れを積極的に行ってきた。2003 年には約 21 万人であった海外からの来訪者数が、10年後の2013 年には204 万人まで増加した。
 しかし、ホテル観光省が発表した統計によると、2015年の外国人観光客数は約460万人だったが、昨年は290万人と大きく落ち込んだ。今年も1~3月の旅行シーズンに入っても観光客の伸びはいまいちだったという。国別に見た観光客数は毎年3000万人近い観光客が押し寄せるタイは別格として、2700万人のマレーシアやシンガポール、インドネシアなどが上位を占める。ベトナムでさえ700万人を超えている。しかしミャンマーはアセアン10か国中9番目だ。
 観光産業は国の経済にとって重要な収入源のひとつである。ちなみに「微笑みの国」のキャッチフレーズでアセアン最大の観光立国になったタイは、観光業収入がタイの国内総生産(GDP)の約10%を占めるほどになったという。
 2014年の政情不安や爆弾事件などで観光産業は一時打撃を受けたが、それでも昨年は2700万人の観光客が訪れたという。290万人のミャンマーのじつに9倍近い数字である。しかもネガティブなことをいうと、ミャンマーの昨年の来訪者の内訳では、陸路のタイ国境からの入国者が大多数を占め、純粋な観光客は100万人余りだったという悲しい現実がある。

高いホテル代と国内航空運賃 行政よりも民間の意識改革が急務

観光客が伸び悩んでいる原因として考えられることは、やはり国内線の航空運賃やホテル代が依然高く、ミャンマーよりかなり安いタイやベトナムなどのアセアン諸国に流れているからだという。
 確かにヤンゴン~マンダレー往復国内運賃より、ヤンゴン~バンコク往復の国際線運賃の方が格安なのはどういうことなのか。他国では考えられない現象だ。ホテル代にしてもバンコクやカンボジアで50ドルも出せばそこそこのホテルに泊まれるが、ヤンゴンでは100ドル以上を覚悟しないと、まともな外国人観光客には不満が残る。パゴダの拝観料や国内のバス料金にしても外国人用料金があるのがどうにも理解できない。海外からの純粋なツアー客や観光目的なら、逆に特別格安料金にしてしかるべきだと思うが。当方が学生時代には、あの米国でさえ100ドルで90日間乗り放題の国内周遊バスチケットがあった。ヨーロッパでも「ユーレルパス」という格安の鉄道乗り放題周遊券が外国人には購入できる特典があった(現在でもあるが)。先進国といわれる国々でも、観光収入の重要さを認識し、色々な誘致政策を履行してきたのだ。
それを考えると、失礼な言い方だが、この国は本当に海外からの観光客を誘致したいのか。それなら金のある外国人からふんだくろうという魂胆が見え隠れする特別料金という制度は今すぐに撤廃すべきだろう。そしてミャンマーの国内交通料金なども、海外で購入した場合には割引にするぐらいの思い切った政策を打ち出さないと、観光客は寄り付かない。
 ホテル代にしても一時の異常な価格よりは下がりつつあるが、それでもまだ決して安くはない。設備面やスタッフのサービスマナーへの対価としてとらえた場合には尚更だ。しかしミャンマーのホテル観光省では観光立国実現のための政策を色々打ち出してきている。ホテルの客室数が適正なのかの検証もしている。鉄道運賃などもローカルと外国人を同一にしたりもしている。
 昨年は、観光業従事者へのライセンス料を大幅に引き下げる措置も行った。ホテル運営、旅行運送、ツアーガイドなどのライセンス料を50%引き下げ、オンラインによる申請登録も許可して手続きの簡素化もした。競争の原理を働かせ、少しでもサービスの向上を意図したのだろう。また今年1月にはホテル観光省のU Ohn Maung大臣がシンガポールで行われた「ASEAN Tourism Forum 2017」で、ミャンマーの観光業投資への積極的なアピ―ルも行っている。
 行政は決しては手をこまねいて見ているわけではないのだ。それでも昨年の観光客数の落ち込みはひどかった。やはりいくら国内の旅行業界の体制を整備しても、肝心の民間の意識がまだ甘いからだと言わざる負えない。本気で外国人観光客をもてなそうという意識が希薄だ。経済水準に比べてまだ異常に高いホテル代や高額な国内航空運賃の是正がされていかない限り、「何も好き好んでこの国へ」、という気になる。
 アセアン諸国には魅惑的なリゾートや観光スポットが沢山ある。料金だって有名観光地でない限り、選択肢の幅がじつに広い。だからこの国がいつまでも「治安がよくて人のいい国民性」というお決りのアピールだけでは隣国たちに到底太刀打ちできない。
 ホテルや運送業者などの民間業者が意識を変え、観光客が来やすい環境と条件を整え、本気になって思い切った誘致キャンぺーンでも張らない限り、この国の観光業の行く末は危うい。
 もう脆弱なミャンマーのバブル時代は過ぎ去ったのだ。選択肢が少ないから外国人は半ば我慢しているに過ぎない。いつまでも昔の夢を見ていてはいけない。そのことに早く気ずかないと、そして行政だけに施策を委ねていると、せっかくの貴重な観光資源が、宝の持ち腐れになりかねない。

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