特集 特別企画 ミャンマー経済人による緊急対談 「大丈夫か、ミャンマー経済」 チャット通貨暴落の原因と今後の動向

今年6月あたりから始まったミャンマーのチャット通貨の暴落が止まらない。8月にはついに1ドル1,500Ksを超え、2011年の民政移管以後では最悪の下落ぶりとなった。ではその要因は一体なにかーー。また経済界はどう見ているのか。政府の対応策はあるのかなど、この状況に内外で不安視する声に向け、ビジネスの第一線で活躍する方々にお話しを伺った。

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編集長 : 7月にミャンマー中央銀行が通貨下落への対応策として、市中銀へのドル売りチャット買いの介入に動きました。しかしミャンマータイムズなどの報道によれば、介入額は7月末から総額で100万ドル(約1億1千万円)程度とみられ、その後もチャット安は続いていることから、さほどの効果は出ていないようです。為替レートの不安定要因で、邦人企業の事業にも少なからず影響が出ています。そこでまず初めにこの通貨下落の要因についてお聞きしたいのですが。
様々な要因が絡み合った通貨安
U Nay Lin Zin: 2018-19年度の財政赤字は過去7年間で最大になっている。この財政赤字は、インフレ率、通貨の減価償却、経済成長の減速など、さまざまな問題を引き起こしているように思えます。どうもこれが根本原因のように考えます。特に通貨下落は深刻です。チャットが下落することで輸入に頼っている事業はドル決歳なので損害を受けています。
 原油やディーゼルオイルなど輸入品はほとんど高騰しています。輸出事業であっても、製造に必要な燃料などは輸入です。雨期に入って生産量は減少しているとはいえ、燃料が上がっているので輸出業でも楽ではない。
U Aung Myint: 確かに、税金を含む総収入は2兆500億Ks(約1,730億円)程度なのに、総支出は2兆4,950億Ks(約2,120億円)超となっている。つまり赤字は4450億Ks(約390億円)になっています。2012年4月にもチャットは大幅に落ち込みましたが、それは建設ブームで輸入が増加したためといわれた。それでミャンマー通貨はフロート制に移行しました。しかし輸入超過だけでなく、金価格の下落が原因とする人もいた。そうなると、通貨投機に走る人が続出し、米ドルの買いだめが始まった。今回のチャット安の原因も、多分、そうした幾つか、あるいは全部が絡み合って起きている現象ではないかとも思います。
U Han Thaw Zay: チャットの下落は6月頃から始まりましたが、これはミャンマーの対外貿易取引の約4割を占める中国の人民元の下落に呼応して急落したという見方をす る人もいます。IMF(国際通貨基金) の調査によれば、ミャンマー中央銀行の外貨準備高は2017年末で約52億ドル(約572億円)で、輸入総額の約3か月分にしか過ぎないという統計も出ています。この慢性的な外貨準備不足も原因かもしれません。しかし、この通貨下落に関しては、今のところ何が原因なのか、今後チャットはどうなるのか、政府の為替政策はあるのかといった疑問には、誰も答えていないような気がします。

輸出入手続きの簡素化などの 構造改革を

編集長: 財政赤字が拡大し、通貨危機が続く限り、輸出入業者ばかりでなく、インフレ率が上昇するリスクがあります。ミャンマーチャットが固定制に戻れないならば、レートは基本的に不動産価格などと同様に需要と供給のバランスで決まります。チャット需要はミャンマー産品を買い付けるために主に輸出で必要とされるし、米ドル需要は輸入で必要とされます。IMFの統計によれば、ミャンマーの貿易収支は1980年―2010年の間はバランスが取れていました。しかし2011年の民政移管からは輸出も伸びたが、輸入の増加はもっと急激でした。現在の貿易赤字はGDPの6%前後にもなっているといわれますが、そうなると更なるインフレにより、企業や一般市民が厳しい状況に起かれるのではないかという懸念もあります。これに対する打開策はあるのでしょうか。
U Han Thaw Zay: 経済を上向きにしていくには、政府の協力が絶対条件です。リフォームが遅れていけば、変革も余り目立たないでしょう。むろん革命のような政治転換では、投資者が躊躇してしまう。
 他国に比べたら、輸出入の手続きがまだ容易ではなく、こうした構造的な改革も必要でしょう。そして国産品の増産を奨励し、輸出企業を増やすことです。政府関連の費用を節減し、海外からの資金調達を積極的に行い、経済の向上に向けた政策に使っていただきたい。また現行の金融制度を見直し、特に銀行システムの改革と外国銀行から資金を導入してより近代的なシステムを構築すべきでしょう。
 外国では輸出品のアイテムが多くなると、逆にその輸出企業に対しては減税をするシステムを敷いているところもあります。またSME起業家については、社内用機械を輸入する場合、その税金を減額すれば起業家が増え、GDPも上がってくると思います。短期でも、適用できる政策が必要だと思います。
 いずれにしても、こんな状況だからこそ各大臣省が一致団結しなければなりません。力を合わせないと、発展や向上が遅れていきますよ。しかし一番大事なことは政治的な安定です。外国からの投資は国が安定してないと難しいです。発展途上国が抱える問題や出来事が多く、解決していくにはかなり骨の折れるハードな改革が必要でしょう。そのためには特に若者たちが積極的に参加していかないといけない。政府と国家を信じて協力させるべきです。

政府、国民が義務と責任を 果たせば事態は好転

編集長:改善策としては4年前のチャッ
ト下落の時にミャンマー中銀が、航空券・旅行費用・ホテル宿泊代をはじめとする商行為に対して、ドルでなくチャットを使用するように通達を出しましたが、それが徹底されていないのが現状です。しかも個人で消費する物品の約7割が輸入品となっていることも、通貨下落の要因と考えられています。しかし投資企業にとっては穏やかではない。振替変動のリスクは常に付きまとう。仮に10%を利益出しても、6月中旬から7月にかけて起きたような8%もの変動が出れば、利益は帳消しになります。この状況でミャンマー経済は大丈夫なのか、という点も気になりますが。
U Nay Lin Zin: ラカイン州のイスラム系住民の問題で海外からの投資が冷え込んだことも抜きにはできないですが、一時よりは投資は増えています。問題なのは徹退する企業も少なくないということです。
 よく言われているように家賃が高く、電気や交通インフラなどの未整備が影響しています。また雇用条件など労使間の法律もさらに明確にすべきでしょう。そうでなれば投資も下がる傾向にあり、経済的な効果も出ないと考えます。3年後には隣国のラオスを追い越すとまでいわれていましたが、現在は微妙なところですね。
U Aung Myint: 通貨価値を安定させ、経済状況を好転させていくには、貿易に関係する法規制の緩和やラカイン州での問題解決も必要でしょう。海外からの援助や融資に頼らず輸出を増やして国内の経済を向上させることが根本的な解決策です。事態がいきなり収束することはなさそうだが、昨年12月ごろから約1年半ほどはかなり安定していただけに、今の状況は懸念される水準ではある。輸入品が多いだけに、これに乗じて値上げが起き、経済がさらに悪化するのは何としても防がなければないないと思います。
U Han Thaw Zay: そのためには、国民や政府がすべき義務と責任をより鮮明にしていく必要があります。企業向けに短期・長期の政策を作り、それを現実化させ、国民に明確に示した方がいいと思います。国家的な経済ターゲットをはっきりと発表するようになればいいと思います。
 外貨を手に入れるために規制外のレートで取引したりするのもいけない。ルールは守るべきなのです。それとやはり日本との交流はさらに深めることが大切ですね。これまでもミャンマーの発展に向けた支援をいただいておりますが、これからもより固い絆を構築していきたいです。
 とにかくまず良い政策を作りましょう。日本との関係がもっと深くなることを期待しています。これまでも日本は金融支援だけではなく、技術的にも協力くれていますので、とてもありがたいと思います。日本の協力は必要ですし、大歓迎です。
編集長: 経済理論で行けば、通常は為替レートは自動調整される。輸出に拍車がかかればチャット需要が増し、レートは安定していく。問題は財政的な裏付けでしょう。
巨額の貿易赤字を慢性的に抱える米国は、海外の投資資金が流入する限り財政資金は賄える。しかし、この国の証券市場はまだ脆弱で、海外からの投資資金の大きな流入は期待できない。
 しかし他方、IMF統計によれば、ミャンマーは貿易赤字の拡大をはるかに上回る外貨準備高の伸びが見られるという。投資家がこうした点をポジティブにとられ、関心をを示す限り、ミャンマー経済の将来性は絶望的ではない。潜在能力があるだけに、政府、国民やるべきことを行い、悲観的に取らえない方がいいということでしょうか。今回、皆さま方のお話しも大変参考になりました。本日はお忙しいところありがとうございました。

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