◎ミャンマー人の肖像

数々の古典を世に出し、漫画出版にも尽力する出版人 ミャンマーの読書人口の減少や配本制度も憂う作家

View ビューさん 作家

 ミャンマーの出版業界や作家の世界は一体どうなっているのか。そこですべてに精通する作家のチョウさんに現状や問題点などをお聞きした。

出版、編集のジャンルからスタートし、漫画の脚本家から作家になったチョウさんは、ミャンマーでは珍しいタイプのクリエィターである。  「今でも自分は出版人だと思っています。これまで私は『Dagon Shwe Myar』 ,『 Thaw Dar Swe』 ,『Dagon Tar Yar』 など、この国の有名作家の古典を沢山世に出してきましたよ」。  当時、本のカバーの表紙に使うために、チョウさんは友人であった画家のWin Thaw氏を訪ねた。すると 彼から漫画家のKaing Win氏を紹介されたのだ。  「偶然でしたがその漫画家の作品は前から知っていて、とても好きでした。そこでその理由だけで、彼の作品を出版することを思いついたのです。ただ、その当時のKhaing Win さんはほとんど無名に近かったため、出版にあたってある作家に原作の依頼をしたのです。ところが出来上がったそのシナリオが私のイメージと違っていたので、結局、自分で書くことにしたのです」。  これが作家になるきっかけだった。この時代、ミャンマーで一番人気のある作家は女流作家のジュー氏(Juu)だった。 彼女の「運命を信じない人たち」という作品はベストセラーになっていた。  「いいタイトルでした。この題名に魅せられた私は、失礼とは思いながらも、自分の最初の作品の題名を『あの世を信じる人たち』と名付けてしまいました」。  チョウさんの原作をもとにしたその漫画も完成して出版された。しかしこの漫画本はあまり売れなかった。そこで再びジュー氏の評判作「あたしの木」という作品のタイトルをパクリ、「僕の電柱」という題名をつけて出版した。  「内容は全く違いましたが、先生の有名作品をもじったおかげで、二作目はちょっと話題になり、読者からの感想も寄せられるようになったのです」。  その後は順調だった。三作目の「山脈のような男たち」という本は有名なり、映画化までされた。こうしてチョウさんは出版人から、漫画の脚本家、そして作家生活に入ることになったのだという。  では作品のアイデアはどうしているのか。情報の少ないミャンマーでは苦労しているのではないかと察するが。  「どんな小さな出来事でもヒントになりますよ。自分の過去の体験をふと思い出したり、欧米映画のワンシーンを思い浮かべたり、困ることはありません。例えば、憧れのジュー先生の『あたしの好きな男性とは』という作品を、『僕の好きな女性たち』と置き換えて作品を書くこともできます。まず筋立てを考え、登場人物の男性を女性に変えて4人ぐらいの個性の違った女性を作り上げ、辻褄が合うように繋げていくんですよ。筋を考えるのは難しいが、そうするとまるで、実体験の人生を描いているようになります」。しかし、小説とは違い、漫画の脚本は少々勝手が異なるらしい。  「漫画は作画者の技術が上がればあがるほど、表現のインパクトが強くなります。例えば転ぶシーンがあったとしたら、文章で『彼は転んだ』と書くだけでは平凡過ぎますが、漫画なら作画だけで情景が伝わります。そこをわきまえないといけませんね。ただ、私の場合は読者に認められたのは、漫画のシナリオではなく、小説の方だったんですよ」。  そのため、最近は小説に力を入れすぎ、漫画の脚本をあまり書くけなくなってきているという。そこで小説をちょっと休み、1年間ほど時間を作り、再び漫画の脚本に取り組み始めるという。  しかしネットやスマホがこの国にも普及し始め、ミャンマーの若者の間でも読書の習慣が減り、活字に接する機会が少なくなってきている。その点を出版人としてのチョウさんはどう考えているのだろうか。  「最近、確かに若者があまり読書をしなくなったと、よく言われますね。昔と比べても貸本屋さんが少なくなった。私たちの若い頃は、娯楽といえば本屋しかなかったのです。今は携帯、ネット、ゲームなど色んな遊び方が生まれました。そのネットや携帯で何でも情報が得られるし、読書への興味は薄れていく一方でしょう。外に出て遊ぶ子供たちも減りましたしね」。  「個人な感想を言わせてもらいますと、それでも本を読む人数は減っていないのですよ。以前、City Martや他のデパートなどで、作家自身が宣伝のため顔を出して本を売ったことがありますが、かなり売れました。人々が本を読んでいる証拠です。有料で読書ができるオンラインの「Wun Zin」なども儲かっているといいます。読書にお金を使っている証拠なのです」。  チョウさんに言わせれば、読書習慣が減ったわけではなく、国の配本制度が低下したのも原因だという。例えば、カチン州のプタオーのような北端の町はおろか、ミチーナーから注文したくとも、簡単に入手できない。読者のニーズがあっても、地方への配本制度が確立されていない。だから読書人口が減ったのではなく、本を届けるシステムがレベルアップしていかないからだという。これには民間の力も必要だという。  ミャンマー人の作家については日本人には余り情報がなく、よくわからない部分が多い。現状ではどうなっているのか、最後にこのあたりのことをうかがってみた。  「今の時代は実際に優秀な人だけが生き残ります。いわゆるその書き手の『味』であり個性』が大事なんです。だから想像力より現実感が優先される時代になっています。真実をきちんと表現しないといけません。難しいことですが、作家の使命でしょう」。  ミャンマーの出版業界に君臨し、時代に翻弄されながらも我が道を往くチョウさんの今後の作品と動向には注視していきたい。

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