顔・人│VIP インタビュー Cho Lei Aung チョー・レイ・アウンさん Tree Food Co. Ltd. Founder & CEO ツリー・フード株式会社 創業者& CEO

 医科大を卒業した研究熱心な女性が、ライフワークとする食品ビジネスで成功を掴んだ。誰もが気付かなかったミャンマーの自然食材を加工して、海外で評判を得た。アインシュタインを尊敬する学者肌の資質が、この国の食品ビジネスに新風を吹き込むか。

目次

医大生、アパレル業界を経て天職の自然食品会社を軌道に 斬新なアイデアを盛り込んだ天然黒砂糖が海外で評判を呼ぶ

医者になる強い願望はなかったが医大へ
ファッション・ブティックを開店したが
 子供のころから絵画や芸術作品に興味があった。一つのことに集中して粘り強く追及していくことが好きな性格だったという。
 それで大学は医科大を選んだ。特段、医者になろうという気持ちはなかった。とにかく科学的に解明したり、研究することに関心があった。しかし医大を卒業しても、医学の道には進まなかった。なんと、ファッションの世界へ飛びこんだのだ。
 「医者になりたいという強い願望があったわけではないんです。もともと芸術やファッションが好きだったので、大学を出てから何かそういう関係の仕事をしたいと考えていたんですよ。それで小さなファッション・ブティックをヤンゴンでやり始めたんです」。
 三宅一生など日本の著名デザイナーにも憧れ、いっもネットで情報を見ていた。だから店の開店にあたっては装飾からロゴ、パッケージデザインまで、すべて自分のアイデアでやった。しかし彼女の意に反して、ミャンマーのファッション業界は、非常に特殊な状況にあった。
 「一人のデザイナーの方がヒット商品を出すと、口コミやネットなどでそれが評判を呼んで、類似したコピー商品が巷に溢れます。
それはすごいんです。するとせっかく苦労して作り上げた洋服は、全く見向きもされなくなる。才能のあるデザイナーの方でも、やはり売れ筋の商品の路線に沿ったものを作らざる負えない。これではミャンマーのファッション業界は成長していきませんよ」。
 創作意欲が旺盛で、人とは一味違った個性的な作品を作っていたチョーさんにとって、この商業至上主義的な風潮は、思い描いていた世界とはかなりかけ離れていた。
 「三宅さんもそうですが、世界には様々な個性あふれるファッション・デザイナーの方々がいらっしゃいます。そうした方々が競い合い、毎年斬新なデザインが生まれていきます。それが才能あるクリエイターを育てていく土壌になっていると思うんです。ところがこの国にはまだまだそうした意識が芽生えていません。とにかく売れないと駄目なんですね」。
 それでチョーさんは落胆し、1年あまりで店をたたんだ。このままやっていても彼女の
目的と個性が生かせないと判断したからだ。このあたりの見切りは早かった。

自身もスペシャリストを目指す 自然の食材研究が生涯のテーマ

 尊敬する方はだれかと問うと、間髪を入れずに「アィンシュタインです」という答えが返ってきた。長い間、かなり多くのミャンマー人にインタビューしてきたが、この天才的な大物理学者の名を口にしたのは彼女が初めてだった。
 「彼は世界的な物理学の専門家です。私はどんな分野でもスペシャリストの方は尊敬します。私自身もスペシャリストを目指しているからです」。
 そういう彼女は医科大在学中も、アパレル・ビジネスをやっているときも、食品の研究だけは一貫して続けていた。この分野のスペシャリストになろうと考えていたからだ。
 「それは私のライフワークともいうべきテーマなんです。ミャンマーには海外にはまだあまり知られていない食材が沢山あります。国民は慣れ親しんでいても外国人には全く知られていない食材が豊富にあるんですよ。そうした食材を何とか海外に広めることはできないか、といつも考え、研究していたんです」。
 確かに農業国であるこの国には、我々外国人が見たことも、口にしたこともない食材が眠っている。ミャンマー人は日常的に食べているものでも、あるいは海外で素材は知られていても、調理法や味付けが異なるから、外国人が口にするにはかなり勇気がいる。
 「ある時、ミャンマーのローカルレストランで食事をしていたら、食後のスィ―ツとして黒砂糖が出てきたんです。味はそれなりに美味しかったんですが、何の変哲もない金属の皿に無造作に盛り付けられてテーブルに置かれたそれを目にしたとき、ふと、アイデアが浮かんだんです。これを海外で販売できないだろうか。外国人用のお土産にできないかと、、、」
 通常砂糖はサトウキビなどから作られるが、ミャンマーの黒砂糖はヤシの実の樹液を凝縮させ、乾燥させて製品化するのだという。だから文字通りの自然食品で、甘味度もナチュラルでくどくない。
 「それで試作品を何個も作り、テスト、改良を重ねてやっと自分が納得できる味になったので、2015年に現在の会社を立ち上げました。でも、海外に輸出するにはもうひと工夫する必要があると考え、黒砂糖ですが、バニラとかシナモンなどのティストを盛り込んだが商品も開発しました。パツケージも私がデザインし、お土産としても通用するようにおしゃれな感じに仕上げました。会社のコンセプトや製品のデザインもすべて私一人で作り上げました」。

海外のマスコミにも取り上げられる コンセプト、デザインすべて1人で

 その甲斐あって、このチョーさんの手作りの黒砂糖はたちまち評判を呼んだ。メディアにも取り上げられ、英字紙からもインタビューを受けた。そして外国人ご調達のCity Martグループにも納入の道が開かれた。
 「海外からのオファーも来るようになりました。現在商談中ですが日本からも来ています。1袋2500Ks(約200円) で販売していますが、ロット数や輸送の有無などをお聞きした上で、お見積りさせていただいています」。
 確かに商品をよく見ると上品なデザインで、ミャンマーのお土産としてはいいかもしれない。しかも中身はオーガ二ックの黒砂糖である。日本のデパ地下か原宿あたりの自然食品店などに並んでもいけそうな気がする。

しかも中身はオーガ二ックの黒砂糖である。日本のデパ地下か原宿あたりの自然食品店などに並んでもいけそうな気がする。
「今、月に1000袋以上は出ています。ミャンマーでは日常的に口にしていた食材ですが、少し工夫すれば海外にも需要が生まれることがわかりましたね」。
 ミャンマーのローカルフードを加工して海外へ輸出して広める彼女の戦略は当たった。そして次なる第2弾としてミャンマーの「お茶の葉」を加工した製品を商品化した。ミャンマー人によく食べられている「お茶の葉サラダ」に使う山の茶葉を外国人が食べやすいように工夫した。これも評判がいいという。
 「今、ヤンゴンの他シャン州やマンダレーにも生産工場と販売拠点が持てるようになりました。姉が経営や財務面を担当してくれるようになり、会社は軌道に乗り始めました。もともと食品の研究に興味がありましたから、製品開発に打ち込めるようになりました。好きな仕事ができて幸せですよ」。
 医大生からアパレル業界と紆余曲折はあったが、どうやらここへきて彼女は天職ともいうべき仕事に巡り会えたようだ。誰もやったことがない事業、そしてアイデアと工夫一つでビジネスとして成立するのだという実例をチョーさんは示してくれたのだ。
 「夢はもちろん会社を大きくすることです。お金のためだけではありません。この国の素晴らしい自然の食材をもっと海外に普及させていきたいのです。そうすれば結果は付いてきます。だから日本の方にもミャンマーに来て、実際にミャンマーの食材、料理をご自分の舌で味わっていただきたいのです」。
 もしミャンマーからのお土産に迷っていたなら、City Martに行って「Myanmar Traditional Toddy Palm Jeggery」と銘打った「Tree Food」の黒砂糖を購入してみたらいかがなものか。

<Ma Cho Lae Aung 略歴>
出身地 – ヤンゴン 29歳
学歴  – ヤンゴン医科大学卒
血液型 – O型
家族  – 両親 三人姉妹
趣味  – 絵画、アート、食品研究
尊敬する人 – アィンシュタイン 三宅一生
社会貢献活動 – 孤児院でハンドメイドによるアート作品の技術指導をボランティアで行っている。

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