◎第10回 ミャンマーの税制 「わかりづらい法人税」(その2)

前回は、実際のミャンマー法人税申告書は、こんなに簡単で、納税者が所得や税額を計算する欄すらないと記載しました。しかし、ミャンマーでは申告書を提出しても、Tax clearance certificate(申告完了証明証)を税務当局から発行してもらわないと、事業活動に大きな支障をきたす場合がございます。今回はこのあたりの経緯を説明していきます。

目次

課税当局が最終的に所得を査定し、税額を確定する権限を有している体制下(賦課課税制度)において、所得税法自身が 所得を算定するための原則、基準としてどのような規定を設け、課税当局による課税処分を規制しようとしているのか、確認が重要となります。法律になんて書いてあるか、法を執行する立場にあるIRDの調査官にとっても無視するわけにはまいりません。

1.何が所得の課税原則なのか

実は私も理解が十分とは到底言えないのですが、あえて課税原則といった場合、所得の定義及び経費否認の規定について、触れざるを得ないかと考えます。
 まず第1に、ミャンマーでは所得という法律、経済用語の概念自体が、未成熟な印象を受けます。これは弊社社員に所得税法の和訳をお願いした際、完成した和訳をみて、「所得と収入の用語が混同して訳されているようだが」と担当者に質問したところ、「ミャンマー語の原文では所得と収入は、同一の用語が使用されている」との返答でした。「では、その同一の用語やらの意味を、念のためミャンマー語の辞典で調べてもらえないか」尋ねたところ、「多分見てもよくわからないと思う、辞書は必要ないので事務所に保管もない」とのことでした。それ以上の確認はしておりません。
 第2に、このため所得概念につきましては、以前、課税当局から公表された所得税法の英語版(2011年11月)が今も適正なものとして、見てゆきたいと思います。これによりますと、所得とは、「Income received means income received or deemed to be received, or income accrued or arose or deemed to have accrued or arisen」と定義規定されております。
つまり、所得は以下の4つからなります。
①income received
②deemed to received
③income accrued or arose
④deemed to have accrued or arisen
 まず①と③ですが、それぞれ現金主義及び発生主義といった会計処理の基本原則に基づき、所得計算が行われることを極めて簡潔に表現したものと考えられます。
 次に②ですが、明確ではないものの、おそらく「みなし受領」を意味するものと思われます。例えば債権の利札(小切手等も)をもらったときのように、これを入手しますと現金化する前であっても、その利札が満期となった時点で所得に算入するという考え方です。
 ただ最も気になるのは④です。「deemed to have accrued or arisen」ですが、「みなし発生」という法律・会計用語は一般的ではないようです。「発生」とは大変広い概念で、その中で「みなし」という用語をあえて使用してしまいますと、所得発生の時期をいつとみなすかにとどまらず、認定如何によっては所得範囲がどんどん拡大されてしまう可能性があるからです。

2.みなし規定の問題

この「みなす」(shall be deemed)という用語は、税法上注意して使う必要があります。特に、課税対象に関係する場合は(「みなし配当」、「みなし相続財産」等々)、みなされる範囲、要件等をかなり慎重に規定しておかねばなりません、この用語が大変強烈な意味を持つからです。類似用語に「推定」(shall be presumed)があり、よく比較されます。
 例えば、日本の中央省庁で税制改正作業に携わる担当者向けに「法税執務」という本があり、次のように解説されております。
 「問310:「推定する」と「みなす」とでは、どのような違いがあるのか。
 答え:・・・したがって、「推定する」とされた場合、当事者間に別段の取決めがあり、又は反対の証拠があることが証明されるときは、その取決め又は証拠に基づいて判断され、処理されることになるのに対し、「みなす」とされた場合は、一定の法律関係に関する限り、絶対的にその法律効果が「みなす」とされたものと同一視され、反証を許さない点で両者は異なる」
 つまり最終的に「みなす」とされた場合は、反証を挙げて、是正を求めることができなくなるとのことです。ミャンマーの所得税法上、「みなし規定」の意味も同様に解される可能性があります。その場合、ミャンマーでは、納税者は課税処分に対し一応3回ほど公的な救済手段に訴えることができますが、もしみなし課税が行われた場合、税法上、納税者が勝つ見込みはあるのでしょうか。ある外資系法人が何年間かの間、継続して赤字申告をしていたため、課税当局が「御社は従業員がこれだけいるので、所得もこれだけ発生しているはず」とみなすようなケースが典型です。もし課税当局が、この「みなし所得規定」を根拠に納税者側の反証を受け付けないという事態になりますと、課税処分に対する公的な救済手段自体が、無意味となってしまいます。この点どのように理解すればよいのかです。

3.どのような経費が損金となるのか

所得の定義に関する「みなし規定」を見てきましたが、支出した経費の損金算入については、どのような原則なり基準があるのでしょうか。所得税法は、所得を次の4つに区分し、損金算入されない経費を明示しておりますが、個別の経費否認規定は見当たりません。初めの専門所得は個人のみですが、それ以外は法人・個人共通となっております。
専門業所得
● 資産の取得価格を構成する支出
● 個人的経費
● その専門的サービス業から見て、相当でない(not commensurate)支払い
企業所得
● 資産の取得価格を構成する支出
● 個人的経費
● その事業の規模から見て、相当でない支払い
● パートナーシップやJVの場合で、ある構成員から他の構成員への支払い
不動産所得、その他の所得
● 資産の取得価格を構成する支出
● 個人的経費
● 経費として適当でない(inappropriate)支払

①個人的経費について

そもそもこの個人的経費とは何でしょうか。税法はそもそも実質で判断するとの立場からしますと、個人的経費との認定だけで否認の根拠となりうるのでしょうか。経費を使った個人が役員であれば、役員への一時の給与、使用人であれば使用人給与、第三者に対するものであれば、寄附金や交際費等が考えられます。ミャンマー所得税法では、給与の損金性に関し、役員か使用人か、また一時的かどうかを区別しないで、同一の取り扱いをしているとのことです。そうであれば、個人的経費との認定を受けても、実質的には給与、交際費等としての損金算入という考えもありうるわけです。損金性を否認するには、単に個人的経費かどうかだけではなく、役員と使用人の区別、支払いが一時的か予定されていたかどうか等に関し、ミャンマー税法上の考え方をよく整理した上で、否認規定をおく必要があります。そうでないと納税者もなぜ否認されたのかが分からず、執行上大きなトラブルの原因となるからです。

②企業規模から見て過大な支払、その他適切でない支払

企業規模から見て不相当か、また不適切か、大変認定が難しいかと思います。このためより客観的に判断しようとしますと、従業員数、事業所面積、資本金等が考えられますが、これらの基準により経費部分の相当性を判断しようとしますと、所得税というよりは行政サービスの提供対価に対する税としての外形標準課税に近くなってしまいます。経費のみなし否認ともいえるかもしれません。

4.今後について

ミャンマーでは、最近になってLTOやMTO1の管轄法人に対し、自主申告制度が導入され、申告フォームも新しくなりましたが、今でも税法上は、課税当局が所得を最終的に査定する納税方式(賦課課税)を原則としており、収入や経費計上の原則規定も、極めて抽象的なままです。
 ミャンマー進出企業との間で課税処分を巡るトラブルを回避するには、現金主義や発生主義をといった抽象的な会計処理の基本原則を規定するにとどまらず、まず企業会計の処理基準を税法上どのように位置づけるのか、原則及び個別規定を整理するとともに、所得の範囲の恣意的拡大につながる可能性のある「みなし所得」についても、もっと所得の性格に応じた対応なり、規制を講じる必要もあるのではと考えます。

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