◎今月の視点 もう、この国に「アーナバーデー」(遠慮します)はいらない

10月の声を聞き、ほぼ雨季が去った感がある。

目次

雨季が去り、黄金シーズンの到来が 季節感と“けじめ”の喪失を実感

10月の声を聞き、ほぼ雨季が去った感がある。こののち来年の1月末にかけてカラカラの晴天が続き、この国は黄金の観光シーズンに突入する。思い起こせば今夏、日本の猛暑の報をよそに、ヤンゴンは想像を超える涼しさだった。しかし、空気はどことなく重く、やや湿り気を含んだ外気は、常に微熱のような重苦しさを伴っていた。それが一転して湿度が低下し、まさに体調が戻ったような爽快感を感じる季節の到来だ。そうなると厳しいシーズンを迎える北欧諸国の人間たちが、毎年恒例のように大挙してこの国にやってくる。宿泊施設が埋まり、料金も高騰し始めるのも常だ。
季節が変わるといっても、暑さは容赦ない。ただ、我々日本人にとっての救いは12月までの朝晩、気温が20度前後に下がること。むろん体感的に絶好なのだが、逆に、ミャンマー人の立場になると、これは切実な問題となるらしい。まず、体調を崩す人が続出する。12月初めあたりの夜半、ダウンやマフラーを身にまとった方を見かけたりもするから驚きだ。寒さにはきわめてデリケートな民族である。
そうした光景を見ていると、日本に“四季”という自然のページェントが存在することは幸運以外何物でもない。晩秋になれば冬将軍に備えて衣替えし、精神的に身構える。そして厳しい季節の中で春の息吹を感じる現象を自然界の中に発見し、再び気分をリフレシュする。この繰り返しで私たちは寒暖に対し
ての抵抗力をつけ、そして日常生活の中での“けじめ”をつけてきたような気がする。
ミャンマーに暮らしていると、年間を通して衣服はほぼ夏物であり、食生活も大きな変化はない。クリスマスといっても、視覚的な実感はない。ややもすると季節感を喪失するし、なにより“けじめ”のつけ所を見失いがちだ。

スタッフ雇用と教育の問題が課題に 即戦力人材と創造性の期待は無理か

雨季が終焉を迎え始めた9月末ごろから、邦人訪問者の数がぐっと増したような気がする。大統領選挙、証券取引所のオープン、経済特区ティラワの一部始動さらに市最大規模の複合商業施設の部分稼動など、2年後の2015年に標準を会わせたさまざまな動きに向け、日系企業による投資、拠点つくりが活発化しているためでもあろう。
この1年で、日本語学校が70校を超えたという。2年前には20店ぐらいだった日本の飲食関係もその3倍以上になっているそうだ。日本文化を広め、何より雇用を創出するこうした動きは歓迎すべきことだが、進出企業や飲食店などが直面するのは、ミャンマー人スタッフの雇用と社員教育だという。求人側の大半はまず「即戦力」を口にするが、日本の尺度やレベルを充たす「即戦力」を捜すことは極めて困難である。
文法が同じの日本語はブームで、話す人も予想以上に多いが、雇用するならば今は言葉ができなくとも、創造性があり、向上心の強い人間の方が将来的には雇用主のプラスになる、と言い切る方もいる。 確かに、この国の人々は謙虚この上ない。教育の現場でも、かって言論を制限されていたため、自己主張をしたり、創造性を磨くような導き方はしていなかったという。一例を挙げれば「アーナバーデー」というミャンマー語である。これは「遠慮しときます」という日常的に使う慎ましい言葉だが、我々からみるとまことに歯がゆい。
家庭内での争いごとはタブーで、職場でも言われたことはそつなくする。しかも正直で勤勉そのものの国民ではあるが、それ以上の踏み込みに欠ける。だから日本人にとってこの「アーナバーデー」という言葉だけはいただけない。
然るに「やる気を出せ」と叱咤激励する方法はあまり効果がない。ある課題を叱り、改善させたいのなら、9つぐらいの長所を褒め上げ、最後のひとつで最も言いたいことを指摘し「ここを直せばもっとよくなる」という持っていき方が理想、と断言する日本人マネジャーもいるほどだ。

目覚めたら情報社会の真っ只中に 意識改革が国を変える鍵になる

半ば鎖国状態で、長い眠りから覚めたような感があるこの国の人々にとって、今、目の前で湧き上がった現象や起きつつある様々なムーブメントに対して、眠いまなこをこすりながらも少しづつ現実を直視せざるおえない状況になってきている。
インフラや環境問題、さらに社会福祉、医療教育制度などは、残念ながら日本の昭和3,40年代の水準となってしまうが、幸か不幸か、あの当時の日本と決定的に異なるのは、インターネットや携帯電話の普及がこの国にも驚くべき速度で押し寄せていることであろう。つまり、アナログ社会からデジタル化と情報社会へ移行するのに2,30年を要した日本と違い、ミャンマーは目覚めたらもう情報社会の渦中にいたということである。
だから、国の再興も発展もスピード感を増し、予期せぬ速度で進むかもしれない。その鍵となるのは、やはり「アーナバーデー」に象徴されるミャンマ―人の意識改革に他ならない。

Tags
Show More