◎今月の視点 “黄金”より大事なことは、人と社会の信頼関係を築くこと

「北日本で大雪が」、という報を耳にしても、ヤンゴンでは実感すら湧かない。

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年間最高の“黄金シーズン”へ突入 「黄金の山」への参拝もピークに

「北日本で大雪が」、という報を耳にしても、ヤンゴンでは実感すら湧かない。こちらは久しく雨空が覗かない。連日、30度前後の真夏日であるが、日中でも陽射しはどことなくやさしい。3月、4月の射るような紫外線ではない。しかも朝晩の気温は20度前後に下がり、爽やかな風が頬を伝う。少々早起きしてカンドージ湖南西角にある「Garden Bistro」のテラスダイニングで名物の飲茶に舌づつみを打っていると、湖面に投影した朝の柔らかい光がキラキラと輝き、周囲の濃い緑を一層引き立てる。余りの心地よさに、しばし時間の概念と位置感覚を失う。“黄金のシーズン”とはよく言ったものである。
“黄金”といえばこれから新年にかけて聖地 「GoldenRock」へのお参りが激増する。ミャンマー人の場合は家族総出で、1年に最低1度は祈願に向かうという。富裕層は日本製の4輪駆動車を操り、そうでない方々は「フェリー」と呼ばれる中型運送トラックの荷台に乗って、黄金の岩が祀られた山頂への登山口「チャイティーヨー」へ向かう。来世でより大きな幸せを得るための功徳を積むのが慣例となっている。

“金”はミャンマー人そのものか 金融機関への信頼は未だ薄い

よくよく考えると、この国の人々は“黄金”(Shwe、シュウェ)という響きが好きなようだ。ヤンゴンだけを例にとって見ても、あの「ShweDagon Pagoda」を筆頭に、高架化工事が完成間近の
「Shwe Gon Daing」交差点をはじめ、市内に“Shwe”のついた道路や町名表示は調べてみると雄に200を超す。他の道路名表示と比較すれば断トツで、まさに「金町」「小金井」や「黄金町」のオンパレードである。
こうなると、これは好きという次元の話ではなくなる。海外にいるミャンマー人同士の間では、同胞をさす言葉として「あの人はShwe(シュウェ)」と表現するという。むろん周囲を見渡しても名前にShweと付いた方を見つけるのはたやすい。こうした事例に出会うと、黄金とはミャンマー人そのものではないかと思えてくる。言い換えれば、“金”の存在とはミャンマー人にとって神聖かつ崇拝される象徴に他ならないし、自分を守る最強で唯一のものと解釈できるかも知れない。だから、かつて北部マンダレーで足に金のアンクレットを飾るファションが流行したとき、「足に金とは不謹慎」との批判が出て、たまたま肌が黒くなった人が出現したため、これを見て、保守的な人々は「それみたことか、バチ当たりだ」と真顔で叱責したという。
この背景には銀行などの金融機関に未だに全幅の信頼が置けない、というトラウマがある。この国の人々に聞くと、大半の人が複数の金融機関に預金を分散しているそうだ。だからタンス預金者が想像以上に多いのも事実である。しかしそのトラの子の貯蓄でも安心はできぬ、というもうひとつのトラウマが年配者の脳裡には焼きついている。1964~87年の23年の間に、じつに3度も「廃貨令」が出され、一夜にしてチャット紙幣が一部またはすべてが紙くずになるという事件が起こっている。
「悪徳商人を一掃するため」という時の政府の言い分で、まともな市民には一定期間他の紙幣との交換を認めたが、額が小額だったため財産を失った人が続出したという。

スピード感を増す金融インフラ整備 チャットの札束の山が消える日が近い

今、様々なインフラ整備がこの国で進行中だが、金融インフラ整備に関しては予想を超える相当なスピードで行われている。個人口座の機能向上、国際間の決済のスピード化と簡素化、クレジットカードの普及や電子マネーへの移行など、銀行の窓口の奥にドンと詰まれたチャット紙幣の膨大な札束の山が消え去る日は意外に近いかもしれない。
事が命の次に大事な“ゼニカネ”の問題だけに、焦らず、慎重を期してシステムを構築していただきたい。むろん、金のメッキがはがれる様なことになってはいけないが、その基盤となるのが、なんといっても人と社会との間に、確固たる信用、信頼関係を築いていくことだろう。

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