◎第11回 ミャンマーの税制 「わかりづらい法人税(その3)・・グロスアップ

海外ではよく“源泉税は相手先(支払者)負担の契約です”といった言葉を耳にします。今回は、法人税の個別テーマとして、源泉税を支払者(徴収義務者)負担とした場合の税務上の取扱をみてみたいと思います。

目次

1-1 源泉税の支払者負担

海外営業マンや経理担当者にとっても必須の知識ですが、ミャンマーでは通達、解説がないのみならず、この日本語の慣用表現自体がわかりにくいのです。正確には、“税引き手取り契約”とか“グロスアップ契約”といった方がわかりやすいかもしれません。ただこの扱いに関し、日本も含め広く諸外国の税務執行面では既に確立された考え方や処理があり、 ミャンマーもその例外ではありません。特に「源泉税の相手先負担」の税務上の意味にご注意願います。これをきちんと理解して契約を締結しませんと、支払者は課税当局から思わぬ指摘を受けることがあります。つまりグロスアップ計算により取引価格が増額修正され、源泉税と商業税も増加してしまうからです。海外取引では、使用料、株式・不動産譲渡等、外国法人との間で様々な源泉税負担契約が見られますが、源泉税のベテラン調査官であれば、相手先負担契約の際のグロスアップ問題は決して見逃しません。

1-2 ミャンマーにおける現状

源泉税の支払者負担例としては、海外出向者給与に係る個人所得税の会社負担が一般的です。会社が負担した源泉税は給与に加算され、源泉税のグロスアップ計算が行われますが、これはミャンマーの課税当局も要請するところです。給与の源泉税の根拠規定は所得税法ですが、給与以外の源泉税は所得税法の委任を受けた財務省規則にありますので、給与所得計算時のグロスアップの基本考え方は、その他の源泉税にも適用されます。
 ミャンマーでは、契約に基づく売買、サービス提供といった通常の営業取引に対し、広く源泉税が課税されます、給与以外の源泉税に関し支払者負担とする例は、まだそう多くないかもしれませんし、たまたま事後的に決まる場合もあれば、当初から支払先負担として予定されている場合もあります。想定事例を設け、その課税処理を確認したいと思いますが、簡単な例は家賃です。
 ミャンマーでは家賃も源泉徴収の対象と明記されましたが、これを知らず家賃全額を貸主(ミャンマー法人)に支払ったとします。あとで気づいたものの、源泉税の返還交渉も面倒と考え、借主がこの源泉税を負担し、国に納付してしまったようなケースです。ここで問題は、家賃を9800としますと、借主は源泉税196(9800×2%)を納税するかと思いますが、これでよいかという話です。こういう細かな事例に関し、課税当局から具体的な指摘を受ける機会は、実際はないかと思います。しかし源泉徴収が196で正しかと問われれば、200と答えざるを得ません。Aは196の源泉税を負担したつもりでしたが、実は200を源泉徴収し、負担しなければならなくなる点です。源泉税額の返還あきらめて納税することは、家賃の追加払いとされ、次に述べる源泉税のグロスアップ計算が必要となってくるからです。
 源泉税率2%の時、家賃手取り額(源泉徴収後の金額)が年間家賃9800となるよう家賃の支払総額を求めますと、支払総額は9800÷(100%-2%)=10000となり、その2%の200が、本件家賃に対し実際に源泉徴収すべき税額です。
 今度は契約で源泉税を支払者負担と規定した場合について、あり得そうな事例を想定して、少し詳しく見てゆきゆきたいと思います

2-1  設例

ヤンゴンで通信インフラ構築を広く手掛けるA社は、外注先のミャンマー法人Bと下請け契約を締結しました。その際、2%の源泉税は支払者Aが負担し、Bは源泉税を控除さず、外注費全額を受け取る契約とされました。これは、重要な下請け先Bが累積赤字をかかえており、かつ源泉税の還付が事実上難しそうなことから、Bの資金繰りに配慮したものです。
 Aは、外注費支払に関し10,486,000の支払処理をしましたが、正しいでしょうか。
Aの経理処理:支払総額は、以下3つの合計額10,486,000
①Bに対する外注費:9,800,000
②源泉税支払:9,800,000×2%=196,000
③Bへの商業税支払:9,800,000×5%=490,000
なお源泉税は、雑費勘定で処理した。

回答

正し支払総額は、10,500,000となり、Aの計算より14,000増加します。増加理由は、源泉税4,000及び商業税10,000です。
 Aは自社負担した源泉税相当額を外注費として加算せず、源泉徴収の対象外となる雑費で処理したため、その分外注費の計上が少なくなり、源泉税及び商業税も過少となってしまいました。本件は源泉税率2%ですが、これが使用料等の10%ともなりますとかなりの影響額です。
正しい経理処理:支払総額は、10,500,000
①Bへの外注費:9,800,000÷(100%-2%)=10,000,000⇒グロスアップ後の外注費
②納付すべき源泉税:10,000,000×2% =200,000
③Bへの商業税支払:10,000,000×5%
=500,000
外注費10,000,000のうち9,800,000をBへ支払い、200,000はBの源泉税として税務署に納税し、500,000は商業税としてBへ支払う。

2-2 解説1(支払総額)

支払者Aが源泉税196,000を負担する行為は、税務上、外注費の追加払いとされます。その結果、外注費はまず9,800,000+196,000となります。しかし、外注費が196,000増加しますと、源泉税も(9,800,000+196,000)×2%=199,920と3,920増加してしまいます。そこで196,000ではなく増加後の199,920を外注費に加算しますと、(9,800,000+199,920)×2%=199,990と、源泉税が更に増えてしまいます。では源泉税は最終的にいくらになるのかですが、200,000で確定します。つまり源泉税率2%の時、外注費手取額(源泉徴収後の金額)が9,800,000となるよう外注費の支払総額を求め、その総額に2%乗じると確定額200,000が算出されます。支払総額は9,800,000÷(100%-2%)=10,000,000で、その2%の200,000が本件外注費に対する実際の源泉税であり、196,000ではありません。このように源泉税を負担すると、取引価格が増え、更に源泉税や商業税も増えてしまう点に、十分ご注意願います。この手取り額9,800,000から始まって総支払額10,000,000の算定をグロスアップ計算といい、支払総額10,000, 000をグロスアップ金額といいます。手取り額と支払総額との差額200,000が、確定した源泉徴収税額であり、グロスアップ税額といいます。なお、英語のgrossとは、“税引き前の金額を算出する”という動詞です。

解説2(源泉税の支払者負担の意味)

ではなぜ、そもそも源泉税を負担すると、なぜ外注費の増加とされるのでしょうか。かみくだいていうと、次のような考え方をするからです。
 第一に、税法上、税の負担者は所得の嫁得者たる外注先Bに限られ、私人間の契約でこの負担者をBからAに変更することはできません。このため“源泉税の支払者負担”とは、外注先の手取り額(9,800,000)を保証する趣旨のもの(税引き手取り契約)と税務上取り扱われ、その内容は支払者による源泉税相当額の金銭供与又は利益供与です。
 第二に、では利益供与であれば外注先は第三者ですので、源泉税の課せられない寄附金等に該当するのではとのお考えもあるかもしれません。しかしながら、海外出向者給与の源泉税を会社が負担する場合、勤務関係に基づく負担会社から給与所得者への利益供与、すなわち給与の追加払いとされるのと同様、請負契約に基づいた源泉税の支払者負担も、請負契約にける対価の支払いと取り扱われ、外注費の追加払いとみなされます。もちろん請負契約とは無関係に、受取人の源泉税を負担する契約があった場合は、寄附金等としてグロスアップ計算は不要ですが、通常はありえない契約です。
 以上のように、源泉税の負担⇒外注費の増加⇒源泉税の増加⇒更なる外注増加⇒更なる源泉税増加といったグロスアップを経て、納付すべき源泉税がある一定金額に収斂してゆくわけです。税引手取り契約とかグロスアップ契約と言われるゆえんです。
 外注費支払について、もし源泉徴収票や支払調書のようなものがミャンマーでも制度化されるとしますと、外注費の支払総額欄には、税引手取り額+源泉税(グロスアップ後)が記載され、所得の嫁得者はそのグロスアップ後の源泉税額を税額控除することとなります。

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