◎今月の視点  “食”の安全は金では買えぬ。 農業国の命運はモラルと意識の向上にかかる

雨季のおかげでヤンゴンの8月は30度以下の日が多く、過ごしやすかった。

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“黄金の季節”の足音がかすかに聞こえる  食の選択肢が多彩なヤンゴン生活を満喫

雨季のおかげでヤンゴンの8月は30度以下の日が多く、過ごしやすかった。しかし現金なもので6月から3か月以上も愚図ついた天気の下で暮らしていると、射るような日差しが降り注ぐピーカンの日が懐かしくなる。9月に入って雨は幾分控えめになったから“黄金の季節”の足音がかすかに聞こえてきた。
 私事になるが、早いものでヤンゴン暮らしも4年近くになり、最近は自分でも驚くほどこの街にどっぷり浸かり、溶け込んでしまったような気がする。日本に居ればスーツにネクタイで相変わらず時計を睨みつつの生活を余議なくされるが、余程のVIPに会うかセレモニーでもない限り、ここでは半袖、サンダル履きで過ごせるから心身ともに楽だ。懸命に汗を流しているこちらの邦人企業の方々には誠に申し訳ないが、たまにネクタイを締めると、正直息苦しくてたまらなくなる。
そうしたフォーマルな服装をせずに、雨が降ればアポ時間の遅れも大目に見てくれるこちらの社会慣習に一旦はまると、時々思い出したように「これでいいのか?」と自問するが、改めるまでの勇気はない。それどころか、交通網を中心とした街中の物理的な不便さ、人々との
価値観の相違や電力、ネット環境の歯がゆさまで、不満を言い出したらきりはないが、そうしたことにも余り抵
抗感を感じなくなった自分に気づいて時々ハッとすることがある。食事にしてもそうだ。初めて日本から来る方は、まず「食べるもの、大丈夫ですか?」とお聞きになるが、ヤンゴンでは困るどころかレベルの高いダイニングが多すぎて何を食べるか思案の毎日。弊紙の取材も重なり、すっかりグルメを気取っている。

なぜ根絶できない食品偽装事件 ミャンマーの食品状況を危惧する

ヤンゴンは和食店だけでもゆうに100軒を超し、老舗の中華の名店や邦人に好評のミャンマー料理店も揃っている。また、最近は本場にも負けないイタリアンの出店が目立ち、ワインにこだわった本格的なフレンチまで選択肢は多彩だ。また、日本のラーメンチェーン店、ハンバーガーショップから地元の天然物を使った鰻屋さんまで出来たので、“食”で苦労することはまず
ない。
しかし、ひとつだけ気になっているのはやはり“食”の安全性だ。相変わらず懲りない隣の某大国の食品偽装事件を見るにつけ、ミャンマーは大丈夫か、と思ってしまう。かってはオーガ二ック製品であふれていたが、現在は残留農薬が付着した野菜が多くなったとか、鶏卵の色が薄くなったとか、ちょっと気になる声を耳にすると少々不安になる。そう言う当方の母国だって、ちょっと前に関西の老舗料亭の偽装事件が世間をにぎわしたし、先月も千葉のデパートの食品売り場で賞味期限切れのラベルを張り替えていたというニュースが流れたり、人様のことをとやかくいえぬ面もあるが、少なくとも社会全体が”食“の安全性に厳しい監視の目を向けていることだけは確かだ。

作為的な増産、増殖は慎重に 子供たちのためにも良質な食品を

“安心安全”という観点から考えると、これは決して金では買えぬ。あくまで意識とモラルの問題になってくる。某大国のように、“銭”の誘惑に負けて「死にはしないから」という論外な論理でやられたらたまったものではないが、日本の3倍もの米を生産する農業国のミャンマーにとって、国内消費や輸出を問わず”食“に対する意識の向上は、今後この国の明暗を分けるといっても過言ではないだろう。
 中でも今一番心配なのは「油」だ。ミャンマー料理は多量に油を使うから、邦人には毎日はきつい。また純正油の場合ならまだいいが、長らく使いまわされた油で出された揚げ物類は胃腸をやられるし、体にいいわけがない。また露店の屋台で汲み置きのバケツの水で食器を何回も洗っているのを見ると、これにもさすがに手が出ない。もちろん「そんな綺麗事の理想論を言ったってまず食べることに必死だ」と反論されそうだが、少なくとも、農薬、ホルモン剤や遺伝子組み換えなどによる作為的な増産にはぜひ慎重になっていただきたい。
 今から30年以上も前に、当時西武ライオンズの監督だった広岡達郎氏に話をうかがう機会があった。玄米、野菜中心の食生活改善を選手に実践させた指導法は有名になったが、合宿所の食器洗い洗剤にケミカル系の物を使っていないかどうかまで厳しくチェックしていたという話には驚いた。
 今、そこまでこの国に求めるのは酷だろう。だからできる範囲でいい。前途あるミャンマーの未来を担う子供たちのためにも、隣国の悪辣な商人たちから妙な入れ知恵をされて無理な増産、増殖にもっていくことだけは避けていただきたい。昔、私たちが幼少のころに口にした形が悪く、青臭くともジューシーだった無農薬のトマトやキュウリのような野菜を、ずっと作り続けていってほしいと願うばかりだ。 

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