◎第2回 導│ミャンマーに貢献する日本人

ベイで本格的に旅行代理店を始める 美しい自然の環境保護に力を入れる

目次

花澤 光希 Mitsuki Hanazawa グリーンネコ(株)「Green Neco Co., Ltd.」 オーナー

 2014年3月、タイの留学ビザが切れると同時に私はミャンマーへ移動した。
 前年の8月に初めて南部ベイを訪れた際は、グーグルマップで見たような遠くの無人島まで船を出す時間がなかった。それに当時は今よりずっと立入規制が厳しく、一般の外国人がメルギー諸島への入域許可を得るのはほぼ不可能だった。だけど私は今度こそ、何がなんでもあの島々を実際にこの目で見てみたかった。
 普通にベイから船を出すのは難しそうだと思ったので、タムと私はベイとコータウンの間にあるボウピェンという小さな町へバスで行き、そこでゲストハウスを持っている地元の名士のおじさんと仲良くなった。そして彼の手助けとツテを頼り、私たちは未だ見ぬ島々へ向け船を出した。
 その時はワーヂューン(竹島)と呼ばれる有人島を基点に10日間ほどかけてランピ島やその周辺の無人島を廻った。その日々は圧倒的な体験の連続だった。
 廻る島々のどこにも人の姿はなく、だだっ広い海と空と砂浜と、そこに棲む動物や魚や虫たちの気配しかない。真夜中、冷たい砂浜にほぼ全裸で寝っ転がって波の音を聞いていると、人間として生きることの欲望や絶望やそれに伴う悩み事なんか全部バカバカしく思えて、ただ一匹の哺乳類になって自然に溶け込んでいきそうな多幸感に包まれた。そして「この景色を見たい人が、世界にたくさん待っている」と思った。
 ということで無事に島巡りを終えてシュッとベイに戻った我々はタムの名義でチャッチャと土地を買い、家を建てて事務所にし、そこで暮らし始めた。ここで何ができるのかを決めるより先に、とにかくここにベースを持とうと考えたからだ。まだ誰も知らないけれど、そう遠くない未来に確実に世界から注目される場所。バンコクでクスブッていた私たちにデカい夢をくれたこの町で、あの島々で、そこで暮らす人々と一緒に何ができるだろう?生まれたてのヒヨコのようにまっさらで未発達だったベイという町には、様々な金持ち達の思惑が渦巻いていた。そんな中で、非力な私たちができることは何だろうと考えた結果、タムが一番やりたがっていた外国人相手のガイド業を本格的にやってみることにした。最初、外国人はほとんどゼロに等しい数しか来ていなかったけど、ホテルの人と提携してお客さんを回してもらい、バイクで町案内をしたり、規則に触れない近隣の島を廻ったりした。そうしてできる範囲で動くうちに、ホテル関係者や観光省、イミグレの役人と仲良くなった。2015年の8月にはタムがガイドのライセンスを取得し、2016年の5月には今の旅行会社Green Neco Co., Ltd.を立ち上げた。
 私たちは、かつてのタムのように「タイで出稼ぎしているけど、いい仕事があればミャンマーに戻って祖国のために働きたい」「いつでも家族に会いに行ける場所で暮らしたい」という仲間と一緒に仕事がしたいと思っていた。タイ人に見下されながら働くよりも、自分の祖国の成長のために働きたいというミャンマー人を、私たちはバンコクで沢山見てきた。会社ができた2016年のハイシーズン真っ盛り、いよいよ人手が足りなくなった12月に私はビザ更新でバンコクへ行き、そこで昔の仲間に声をかけた。そしてゲネッシュというネパール系の友達をベイに連れて帰った。彼にも2017年度のガイド養成講習を受けさせ、ライセンスを取得してもらった。資格さえ持っておけばあとはやる気次第で、頑張ってガイドをすればお客さんに気に入られてチップが貰える時もあるし、仲良くなって素晴らしい友人になることもある。毎日が縁ある出会いの連続で、そこから波紋のように知り合いの輪が広がったりもする。
 ベイを訪れる外国人観光客は、私たちが住み始めた2014年の乾期からガツンと増えた。ここ3年でベイには大型の綺麗なホテルや清潔なゲストハウスがバンバン建ち、新しい旅行会社も増え、また道路は大通りから路地に至るまで舗装され、ゴミだらけだった海辺にはゴミ箱が設置されて、町の景観は4年前よりずっと綺麗になった。私たち旅行屋や観光業関係者がベイの町を宣伝することで観光客が増え、町の発展につながる。そして、それに対応する地元の雇用も生まれる。
だけど、観光客の急増には良い面もあれば悪い面ももちろんある。「手付かずの大自然」「前人未到の秘境」であるはずのメルギー諸島を楽しみにお客さんはやってくるのに、観光客が爆発的に増えたせいでそれらの環境は今、危機にさらされている。たとえば、日帰りの合同ツアー客向けスポットとして決められている無人島のビーチやサンゴ礁に、平気で空き缶や煙草の吸殻やプラスチックのゴミを放り捨てる人がいたりする。もちろんガイドは注意するし可能な限り回収するけど、ツアー会社がきちんとお客さん1人1人の意識に訴えなければ、観光客による環境汚染を防ぐことはできない。
 開拓することと踏み荒らすことは全く違う。今、ベイを始めとする南部ミャンマーの観光業に課せられた大きなテーマは、ずばり環境保護だ。昨年ベイでも観光協会が設立され、「エコツーリズム(環境に配慮した観光産業)」「サステイナブルツーリズム(持続性のある観光産業)」を標語に、メルギー諸島のサンゴ礁やマングローブなど自然環境の保護を意識的に行い始めた。メルギー諸島の自然破壊や離島に住む人々の生活への悪影響を減らして、地元に根付いた将来性のある観光産業を展開することを私たちも目標にしている。このベイという、漁業とアブラヤシとゴムの植林だけで金儲けしてきた町は、観光業に関してはまだピヨピヨのひよっこ状態だからこそ、黎明期である今のうちに意識改善しなければ、町自身の未来を潰すことになりかねない。(←※この辺は自然大好きゴリラ男であるうちのタムに語らせると長い。ヤツは最近も環境保護団体の会議に出席しては、その熱血スピーチで次々とお偉いさんを魅了している。)

<花澤 光希  略歴>
本名 花澤光希。1994年3月30日東京都世田谷区生まれ。中学をギリギリ卒業後、様々な仕事を経て邦楽ロック雑誌の編集会社に勤務。退職後、タイ語留学でバンコクに移住するも、クラスには2度しか顔を出さずにタニヤのカラオケ店で通訳のお手伝いをしてタイ語を学ぶ。2014年3月よりミャンマー南部ベイに移住し、2016年5月に現地旅行会社Green Neco Travelを設立。
連絡先:h.mitsuking@gmail.com
・ブログ「南部Myeikでのミャンマー暮らし」http://myanmartravel.blog.fc2.com/
・インスタmyeik_myanmar_mitsuki
・Green Neco Co., Ltd.(グリーンネコ株式会社)http://www.greenneco.asia/
(No.8/B) Myawttyi St., MyothitTadarOo Qtr., Myeik, Myanmar

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