◎最終回 ミャンマーの税制 わかりづらいミャンマー税制

1月から開始したこのシリーズも今回が最終回です。一部でようやく自主申告制が導入され、新たな申告フォームもできましたが、ミャンマー税制には、多くの課題が山積しており、何から手をつけてよいやら、課税当局もよくわからないのが現状ではないのでしょうか。最後に、新自主申告フォームを簡単に見るとともに、それに関連した範囲で、経費の損金性及び所得課税について、簡単に触れてたいと思います。

目次

1. 自主申告が一部で導入されたが

ミャンマーでは、賦課課税制度が採用されており、会社が申告書を提出後、税務担当官が内容を審査・確認し、問題がなければ賦課決定通知を発行し、これでようやく申告が完了するという流れです。しかし課税当局の査定により決定された所得・納税額に関し、根拠等の詳細が開示されず、納税者に不利な査定がなされ、決定通知も大幅遅に延等しているといった指摘がされておりました。そうした中、最近、課税当局内でも大規模法人を所管するLTOとMTO1では、自主申告制を導入し、2017年3月期には新たな申告書フォームも作成されました。自主申告となりますと、申告により納税額が確定し、これを覆すには税務調査権と決定権を行使しなければなりません。賦課課税ですと、納税額確定には、当局側の納税額決定通知が必要となり、それをもらうまでは、納税者は説明、資料提出、回答等に対応しなければならず、しかも一度通知が出されてしまうと、事実上それを争う手段がないと言われております。適正な税務執行を求める日系企業からは、自主申告が認められるLTO又はMTO1へ所管変更を検討する企業もあるようです。
 もっとも、現時点で自主申告は運用で認められているだけです。税法自体は賦課課税のままですので、例えばミャンマー子会社が海外親会社に配当しようとするときなど、どう判断すればよいのでしょうか。子会社の法人税が未確定では配当原資も確定しません。自主申告をもって税額確定とし、配当決議も可能となるのでしょうか、それとも当局からの通知が必要となるのでしょうか。

2. 自主申告フォームの内容は?

フォームを具体的に検討する機会はありませんが、一覧した限りで、コメント致します。
(1)申告納税者の欄には個人の記載はありませんが、個人固有の基礎控除の記載欄等もありますので、今後個人にも自主申告を認める方向と思われます。ただフォームはまだ暫定的で、翌年には少し変わるようです。
(2)このフォームは、法人所得をPART(A)~(C)に3区分し、Dで所得を合計し、Gで会計と税務の調整項目の記載を求めております。
A:事業所得(事業収入-経費)
B:賃貸所得(賃貸収入-経費)で中身は不動産所得
C:その他所得(その他収入-経費)
D:課税所得(事業所得+賃貸所得+その他所得-繰越欠損金)
G:会計上の損益と課税所得の調整計算、

3.フォームへのコメント 3 -1税務調整について

A~Cでは、税務上の計算原則に従って記載すると、注にあります。初めから税務上の金額で所得計算し、あとで会計上と相違した部分を抜き出し、税と会計の調整表を別途Gで作成するといった感じのようです。つまり、会計上の損益から出発し、税務調整を加え、課税所得を算定するのではないようです。
 また税務調整ですが、自主申告制度のもとでは、納税者自らが税法に従って所得と税額を計算、納付して、税額を確定させます。このため納税者が自発的に適正かつ正確な課税所得計算を行うには、事前に具体的な経費の損金算入基準等が税法で明確になっていないといけません。しかし、今回は、会計上の耐用年数が税務と異なるとき、税務上の金額に調整することが明確にされましたが、それ以外は、殆ど以前のままのようです。

3-2所得区分及び税額計算

過去イギリスの影響を受けた国々では、法人所得をいくつかに分類しております。ミャンマーでも法人所得を3区分(事業、賃貸、その他所得)しておりますが、その実質的な理由は何でしょうか。通常考えられるのは、税率差です。基本税率25%ですが、2016年度連邦税法和訳によれば、賃貸所得は10%、源泉不明所得(その他所得)は15%~30%ですので、税率が異なれば、その区分ごとに所得計算し、繰越欠損金も区分して算定、繰り越す必要がでてきます。
 しかしながらフォームDを見る限り、3つの所得は単純合計され、欠損金も一括控除し、すべて税率を同一と想定しているかのようです。しかも、フォームEのTax Computationですが、合計税額を直接記載するようになっており、各所得と税率との対応関係が、よくわかりません。

3-3 その他所得について

法人の事業所得とその他所得について、その区分の基準が明確でありませんが、上記のように両者を区分する意味が、事業所得の25%と源泉不明所得への累進課税という税率差にあると考える場合、不明所得課税は、法人への適用も前提としているように見えます。会計帳簿には計上されていない所得を、別途記載する欄が設けられている点も、気になります。

4.経費について 4-1経費とされない支払い

課税当局が公表した所得税法の条文英訳によりますと、損金にならない経費は、事業所得では一般に、資産の取得価格を構成する支払、個人的経費、規模からみて不相当な支払の3つです。賃貸所得・その他所得の場合もほぼ同様ですが、規模不相当にかわり、inappropriate経費が損金不算入とされます。これを受け、フォームGでも、規模不相当及びinappropriate経費が損金とならない経費と明示しております。
 しかし今回Gで、inappropriateをsuchasbribes, fines and penaltiesと記載し、内容を明確にしたのはよいのですが、ただこれらの支払いは、企業所得でも当然生じ、賃貸所得・その他所得に限定されませんので、所得税法の経費規定を今後実態に合わせた見直しの必要があります。

4-2印紙税が貼られていない場合の経費性

上記の通り、加算税等のpenaltiesは経費になりませんが、これに関連し、大変わかりづらいのが、賃借料の経費も否認されるのかです。「印紙を貼っていない法律文書は、証拠能力が認められないため、・・・・税務当局においても、契約に基づく支払いについて費用として認められない」とよく聞きます。
 印紙税が貼っていないと、その10倍のpenaltiesが課されますが、この加算税の賦課及びそれが経費とならないことは、法令の規定するところです。しかし10倍の行政制裁に加え、更に賃借料否認という新たな行政制裁を科せるのか、つまり印紙が貼られていない契約書に証明力がないとの裁判上の取扱いがあるとしても、それが税法上の経費性の判断に影響するのかです。そもそも経費が控除できるのは、所得を得るために必要な支払であり、かつ実際に財・サービスの消費という事実があるからであり、所得課税の原則規定からすれば、契約書が作成されているか否か、印紙が貼ってあるかどうかとは経費性の判断とは無関係と考える方も多いようです。もし印紙税の貼付漏れが、経費否認の根拠となるのであれば、印紙税、法人税、商業税等々、全く異なる税目の間で、一方の税の課税漏れが、他方の税の納税額自体に直接影響を及ぼすこととなり、税体系の基本が崩れてきます。また、実際問題として、例えば減価償却資産の購入契約等の印紙が一部もれていた時、将来にわたり毎年、減価償却費の一部を否認してゆくのでしょうか。過失でたまたま1万円の印紙が貼っていなかったがため、10億円の売上げ原価が否認され、例えば2億5千万円の法人税を支払う義務が生じるのでしょうか、執行自体が可能なのかです。

5. 法人の収入と不明所得課税

前に述べた不明所得課税は、日本にはない特殊な課税であり、日系企業にはあまり関係ないかもしれません。これは、固定資産の購入資金や実際に保有する資産につき、その資金源泉が明確に説明できない場合の認定課税です。例えば、個人が不動産等の高額物件を購入した際、その購入資金の出所を説明できないときなど、未把握所得による不動産購入とみなして、購入価額に対し課税するものです。一般には記帳慣習のない個人を想定しているのでしょうが、法人への適用を排除する具体的規定は見当たりません。
 今、多額の不明所得を有する個人が、その資金から固定資産を購入しますと、この課税にひっかかりますので、例えばその個人の100%出資法人が、個人(代表者)からの借入資金で購入した形にします。この場合も、代表者は貸付金という資産を取得しますので、その取得原資が説明できなければ、やはり個人に課税される可能性があります。そこで個人課税を回避するため、代表者が、税務調査の際、次のような説明をしたらどうなるのでしょうか。「法人の帳簿に計上された代表者借入金は、実は代表者からではなく、その友人からの現金借入金です。実名を明かさないことを条件に、ようやく貸してもらった貴重な資金です」。代表者にこのような主張をされますと、日本などでは、借入先秘匿による固定資産の購入というだけでは、直ちに法人に課税することはできません。借入金の原資が売上げ除外や架空経費からの捻出資金によるものであることを、課税当局は立証しなければならないからです。しかし、ミャンマーのこの不明所得課税は、損益面の立証責任を課税当局に課しておりませんし、資金源泉が違法行為よるかどうかも課税要件としていないようです。このためまともに適用されると、かなり広範囲な課税となる恐れもあります。しかし、この課税がそもそも法人には適用なしとなりますと、法人を利用すれば、事実上、個人への不明所得課税も回避可能となりかねません。どのように解釈され、取扱われているのでしょうか。

6.最後に

これまで源泉税、商業税、法人税等に関し、法制面から駆け足でみてきました。そこには課税の基本的原則・規定の欠落、広範な課税権の付与、また殆ど触れてこなかった運用上の諸問題等、いろいろあるような気がします。IRDの税務調査官、課税庁幹部としましても、税務組織を支える人件費及び物件費という徴税コストをはるかに超える税収確保を政府から求められているわけですので、規定の不備は自分の頭で自主立法しない限り、徴税自体が困難となってしまうのかもしれません。1914年の会社法がようや改正をむかえ、また投資法の分野でも、ネガティブリストの公表により、業種規制の明確化が大きく前進したと評価されております。しかし、こと税務に関する限り、政府及び議会における具体的な立法措置や対応は、全く聞こえてきません。

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